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作品名:命の重み 作者:シン

最終回   命の重み
俺は耳を疑った。
この子がこんなことを言うなんて…

「学校に行きたい」

これはある男と女の子の話…

俺は独身だ。でも子持ちだ。なんで子供を持ってるかって?
それは話すと長くなるのでやめておこう

この子は今6歳
親に捨てられたのだろう。
とっても病弱な子だ

2日に一度は風邪をひく
その看病も大変なのだ

が、こんな小さな子供を捨てるような馬鹿な親にはなりたくない
捨てた理由は多分面倒を見るのがめんどくさくなったからだと
俺は思っている。

でも最近は調子が良くなってきたので
ずっと休んでいる学校もたまには行かせてやりたい。
こういうのなんていうのだろう…
…親心?

「具合は大丈夫か?」

「うん!大丈夫!」

この子は本当に調子がいいらしく
『あの病気』も治ったんじゃないかと思わせるくらいに
満面の笑顔で返事をした。

でもこの子には大きな爆弾を抱えている。

それはHIVに感染していることだ
正式名称は後天性免疫不全症候群
まぁそんなことはどうでもいいが…

今は少ししか症状が出てきてない
が、医師が言うにはもうそんなに長くはないらしい

このことは本人は知らない

俺がこれを知ったのは病院にこの子を連れて行った時
医師が

「精密検査を受けた方がいいかもしれませんね…」

と言ったので、受けることにした
そうすると、この結果だ

俺はどうすることもできなかった
その結果を俺はどうすることもできない

ただ受け入れるしかない…

でも、今日は本当に調子がいいみたいだ…

「学校くらい大丈夫かな…」

俺はそう思ってこの子を学校に行かせることにした

車で学校へ行き、職員室にまで一緒に手を繋いで行った

「学校♪学校〜♪」
そんなことを言いながら、この子はスキップをして手をブンブン
振っている。
ちょっと痛いが、それほど学校が嬉しいのか
可愛いもんだ…

こうして俺たちは職員室につき、担任の先生にこの子の手をバトンタッチした。

そして姿が見えなくなるまで俺は手を振り続けた
その間その子は俺に

「バイバーイ!!」
「お仕事がんばってね〜!」

など言ってくれた
そのような言葉をかけてくれたことが無かったので
何よりも嬉しかった

それでも俺は何かと心配なので、いつでも電話を取れる状態にして仕事へ向かった

* * *

「はぁ…はぁ…」

苦しい…呼吸しづらい…
俺は慌ててエレベーターに乗り込むと

手で自分の体を支えるように膝に手を置き
呼吸をととのえた。

エレベーターの重たい扉が開くと
残りの体力を振り絞ってまた走り出した

病室の前に行き、ドアノブに手をかける

そのドアはあの子の病気の重みを表しているように重かった

小さな箱の中にはベッドで寝ているあの子の姿と医師がいた

俺が「大丈夫何ですか?」と聞く前に医師はその言葉を予知したかのように

「もう長くはありません…もって一週間…それ以上は…」
と言った

頭が真っ白になった…
俺は何も考えることができずに思考が停止した
命の重さ…それが俺の背中にのしかかった…
こんなにも悲しいものなのか…?
俺は涙が止まらなかった

* * *

何時間たったんだろうか…
俺は家の布団で寝ていた
もちろんあの子は俺の隣で寝ている

この子の意識が戻り、俺は医師に無理を言って
「3日…3日時間をください…!」

と言って、3日間だけ一緒にいれるようになった

その医師には
「なんで他人の子供なのにそこまでするんだい?」
と言われたが

俺はそんなことどうでもよかった

もう助からない命なんだ…
俺はこの子に生きてて良かった、と思わせたい

親に捨てられて悲しみの中生きてきたこの子に
幸せをあじあわせたい…

俺はそう決心し、もう一度眠りについた…

* * *

1日目…
俺たちは公園でこれまでかというほど遊んだ
走りまくった。俺の足は限界だというのに
子供は元気だ

午後からはバイクを走らせ海を見に行った
そこで見た夕焼けは赤く輝いていてとても綺麗だった

その日の夜、この子は
「今日はとっても楽しかった!!」
と言ってくれた

その言葉を嬉しいと思う反面、俺は心に大きな穴が空いたと思うくらい
嫌な音がした。

この子の笑顔を見るたびに俺の胸は締め付けられる感覚に襲われた

2日目…
俺たちはディズニーランドに行った
この子がテレビのCMを見るたびに行きたいと言っていたので
連れてくることにしたのだ

もうこの子はテンションMAXだ
目を輝かせている

それを見ると俺はまた胸が痛む…

ディズニーランドではミッキーたちと写真をとったり、
いろいろなアトラクションを楽しんだ

その後は最高級のホテルに行き、夕食をとった
この子にとっても、俺にとっても今までに食べたことのないような
美味しいものばかりであった

「今日も楽しかった!」
と、俺の背中で眠るこの子はそう言ってくれた

家に帰るのが遅くなってしまい、時計は2時を回っている
その子を布団にゆっくり優しく置き、毛布をかける…

とっても幸せそうな顔だ…
この子はもう少しで死んでしまうんだ…

また胸が締め付けられる…

「明日はどこに行こうか…」
そんなことを言いながら、俺はそこの子横で眠りについた

3日目
昨日までのことが嘘だと思うくらい現実は残酷だった

意識不明…倒れたのだ…

俺はあの子の意識が戻るまで病室の前で待っていた…

1時間…2時間と時間だけが過ぎていく…

俺は泣くことしかできない自分の無力さに失望した
あんなに笑っていたのに…
あんなに幸せそうだったのに…

今は暗闇の中…
その闇から早く開放してあげたいのに何もできない…

俺は唇から血が出るほど強くかんでしまった

痛い…

いや…あの子は俺のこの痛み以上の痛みをしょってきたんだ…

その痛みを分かち合いたい…
でもそれができない…

あの子は俺の中で
『拾った子供』なんかじゃなくて
『血の繋がった家族』に変わっていたんだ…

俺はそう思うと涙が止まらなかった…
もっとたくさん美味しい物を食べさせてあげたかった…
もっとたくさん面白い場所に行かせてあげたかった…

後悔しきれないほど俺は後悔した…

するとその時、病室からナースが慌てた顔の様子でドアを開け出てきた

「どうしたんですか?」
俺が尋ねるとそのナースは

「…目をさましました…」

そう言った
俺は返答をする暇もなく、本当かどうかも聞く暇もなく俺は病室に駆け込んだ

ベッドにあの子が横たわっていて、こっちを見ていた。

「大丈夫か?!」
俺はそう言うとその子は首を縦に振って笑顔を見せた

「良かった…」
俺はそう口に出したもののもう危ないということくらい俺にはわかった

これが最後の時…
そう思うと涙が止まらなかった…

俺は顔を伏せ…とにかく泣いた…

泣いちゃダメだ…最後は笑顔で…
そう思うほど涙は止まらない…

「泣かないで…?」
その子は俺の手を握ってそういった

細く…小さな手だ…

「私…生きてて良かった…あなたに拾われて本当に良かった…
私のお父さんになってくれてありがとう…」

この子の瞳から涙が流れた…

いつも笑顔だったこの子が初めて見せた涙だった

かすれるほどに泣いたのに涙が溢れ出してきた…

俺はこの子の手を強く握りしめた…

そうして俺は出もしない声を出した
「そういえば…名前聞いてなかったね…最後に聞いていいかな?」

そう言うとその子は首を傾げ
「言ってなかったね…私の名前は...だよ…」

その言葉は空気を振動し、俺の感覚器官をに伝わった…

「うん…ちゃんと聞こえたよ…俺の子供になってくれてありがとう…」

俺は笑った。その言葉を発した数秒後、
無機質で一定の音が病室内…病院内に鳴り響いた…

* * *

「はぁ…はぁ…はぁ…」
俺はまた走っていた
あの時もそうだったな…
と、懐かしく思う。

あの子が死んでもう5年が経つ
俺は結婚した

あの日は悪いニュースだったが、今回はとってもいいニュースだ

エレベーターの扉があき、病室へ急いだ

その部屋のドアを開け、奥へ進むと

俺の妻と、その妻に抱かれている小さな赤ちゃんがいた…

「お前が産んだのか?」

「なに?それ以外何があるの?」

「それもそうだな…」

俺は妻にそう言われるとところに行き、赤ちゃんの顔を覗き込んだ

「ほーら。お父さんですよ〜」

妻がそう言って俺に赤ちゃんを渡す…
3000gしかないにもかかわらず、とても重たく感じた

「これが命の重さなんだな…」

「何言ってるの?…」

「いや…なんでもない…」

「それより名前は?」

妻にそう言われると、ハッと我にかえり、その声に反応する

「実はもう決めてるんだ」

「え?すごい。本当?どんな名前?」

あの子の笑顔が頭に思い描かれる…


「その名前は………」



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