私は、ゆうくんから逃げるように、玄関へと向かい、鍵を開けると…走ってきたのだろう、息を切らしたみーちゃんが、私を頭の先から爪先まで眺めた後…。 「…理子姉。どうして、そんなに髪や服が乱れてるの?」 「こ、これは…」 「それに、居るんだよね?…ゆう兄が…」 やはり、気付かれていた。 「…美鈴」 私の後ろから、ゆうくんがみーちゃんに話し掛ける。 「ゆう兄」 二人は暫く見つめあった後、みーちゃんが私を見た。 「ねえ。中に入っていい?」 酷く冷静な声。 私は、言葉を発せずに頷くだけだった。
テーブルを囲んで、私たちは座ったが誰も口を開こうとしなかった。 重たい沈黙が流れる。そして、その重たい空気を払ったのはみーちゃんだった。 「ねえ。二人は、何をしてたの?」 「た、ただ話てただけだよ?」 「どんな?どんな話をしてたの?理子姉の、髪や服が乱れてたのはなんで!?」 みーちゃんの顔が段々と強張り、ヒステリックになっていった。 次に口を開いたのは、ゆうくんだった。 「美鈴。悪い。…俺は、今日理子に告白しにきた」 「……っ!!」 みーちゃんは目を見開くと、悔しげに唇を噛む。 「理子姉。ずっとゆう兄のこと、好きだったもんね。良かったね。…でもね」 みーちゃんは、自分の鞄から何かを取り出すと立ち上がり、ゆうくんへと抱き付いた。 ゆうくんは、目を大きく見開き、再び立ち上がったみーちゃんを見るとその場に倒れた。お腹を押さえ苦しげな呻き声を漏らしていたが、すぐに静かになる。 「ゆうくん!?」 私は驚いて、名前を叫ぶように呼ぶが反応がない。 みーちゃんを、恐る恐る見上げると、ジッとベッドサイドの棚に飾られた、幼い頃の私たち3人の写真を見つめていた。 そして、私は見てしまった。みーちゃんの手に鋭く光る赤く濡れたナイフ。 「理子姉の大切なもの。あたしが全部奪ってあげる。 ゆう兄も、思い出も…」 綺麗な笑顔だった。 怖いぐらいに綺麗な笑顔で告げた後、ナイフがみーちゃんの喉元に刺さる。 鮮血が部屋を赤く染め上げていく…。 「みーちゃんっ!」 私の声は届かず、みーちゃんの体がぐらりと揺らくと、その場に倒れた。 私は呆然と、赤く染まっていく二人を見ながら、思考が、これ以上頭を回転させることを拒絶した。
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