そうして半年の月日が流れた秋のある朝。彼は目を覚まさないまま天国へと旅立って行ってしまった。多臓器不全だった。 彼の死により、綾奈は絶望と諦めの渓谷で身動きが取れなくなってしまい、心を失った蝋人形のようにそれからの日々を生きた。死ぬ勇気も出ず、かといって前向きに生きる決心もつかず。償う機会を永遠に失い、死んだように生きる、綾奈にはそれしか出来なかった。 その罪悪感はいつしか綾奈にこう思わせるようになった。 自分には幸せになる資格がない。 その責め苦は10年経っても綾奈のところにとどまり続けた。 それでも時間に追われ、日々忙しく過ごしていると、望もうと望まないと限らず、真二と過ごした日々の記憶は薄れていく。 だが罪悪感というものは新しい人生を歩むことを許さない。記憶は薄れても傷跡は残り続ける。そして傷跡を見る度に生々しくあの日のことを思い出すのだ。思い出せばそこから振り出しに戻る。そうやって綾奈は今まで生きてきた。それでも良かった。 それが私の贖罪なのだから。 しかし裕也と出会って自分は変わってしまった。 裕也が傍にいてくれるだけであの日の記憶が遠いものになっていく。遠いままになっていく。それは今まで一度たりともなかったことだ。 しかしこの裕也への思いは口には出せずにいた。 口に出せるのは真二に対しての罪悪感だけ。
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