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作品名:魔王の器候補は両性体 作者:雲のみなと

第8回   8
アルクは実は魔力を持たない普通の人間だ。それがどうしてこの学校にいるのか。理由はローレイが校長の特権で特別にアルクを入学させたのだ。
アルクには両親がいない。アルクが2歳の時に両親が建物の倒壊事故で死んでしまったのだ。アルクだけは奇跡に助かり救助されたがかわいそうに両親を亡くしてしまった。
建物を倒壊させたのは魔物だった。魔物が建物を破壊した時にアルク一家が偶然その場所を通行したのだ。それが不幸であった。
アルク一家は下敷きになってしまった。建物が倒壊したこと、巻き込まれた人たちがいることを人づてに聞いたローレイは慌てて現場へ駆けつけた。しかし時すでに遅し。アルクの両親は遺体となってしまった。
だが崩壊した建物の中から子供の泣き声を聞いたローレイはアルクを救い出した。アルクは母親の腕の中で奇跡的に助かったのだ。
この痛ましい事件の中でアルクが助かったこと、自分が救い出せたことに縁を感じたローレイはアルクを引き取って育てたいと思った。むろん両親の親戚にアルクを引き取りたいという申し出があればそちらに快くアルクを託すつもりだった。アルクにとっても血が繋がっている人に育てられた方がいいだろうと思った。
しかし親戚の者は一様にアルクを引き取ることを拒んだ。ローレイはアルクの気持ちを想っていたたまれない気持ちになりながらも引き取って育てることにした。
アルクには魔物などとは無縁の普通の幸せな人生を歩んで欲しいと願っていたので普通の学校に入れるつもりだった。

だが5歳を過ぎたあたりからアルクが騎士になりたいと突然言い出したのだ。
当初は反対したがどうしても騎士になりたいと言って駄々をこねるので、仕方なしにアルクが6歳になった年に騎士を養成する騎士学校に入れた。
アルクは幼い頃から身体的能力に優れていて騎士としての素質は有り余るほどにある。武術、馬術、戦術を学びその才能を開花させていった。
しかしなぜかアルクは普通の騎士では嫌だと言い出した。ことあるごとに魔物を退治をしたいと懇願するようになったのだ。
両親の仇をとりたいのだろうかとローレイは思った。
でもアルクは当時2歳、あの時の記憶はないはずなのだ。それでも魔物を退治したいと言ってきかないアルクに根負けした。魔力を持たない人間を魔物と対峙させる危険性は重々承知だ。
だがアルクには秀でた身体的能力がある。高い戦闘能力、そこに魔術師たちが魔力を込めた剣や盾を持たせれば魔力のないアルクでも魔物と渡り合える、そう考えたローレイは若い内にアルクを魔術師というものに慣れさせようと思った。
魔術師と共に戦うことになれば術師との阿吽の呼吸が必要となってくる。魔術師が何を考え何をしようとしているのか瞬時に判断し援護する。もしくは共に攻撃に転じる。そういう臨機応変さが不可欠になる。
鉄は早い内に打て。ローレイはアルクが9歳になった時、騎士学校からこの魔法学校に特別に入学させた。

しかしローレイはすぐに後悔することになる。魔力を持つ者は往々にしてプライドが高い。自分が神に選ばれた人間だと自負している者もいる。そんな中に魔力を持たないアルクを放り込んだらどうなるか。
たちまちアルクは孤立した。周りの者はアルクを役に立たない人間だと見下し差別する。疎外し冷たい視線で一瞥したり陰口を叩いたり時には本人に直接「役立たず。無能な人間」と蔑んだり。
アルクは魔力を持たない自分を卑下し反論出来ず恐縮していった。
クラスメイトと馴染めず、友達も出来ずに孤独に過ごしている日々。ローレイはいたたまれなくなって騎士学校に戻るかと問えばアルクは頑固に首を横に振るばかり。魔物退治の騎士になると言い続けている。
だがさすがに寮に入れるとそれこそ朝から晩まで孤独の苦しみを味わうことになるのでローレイの自宅から通わせている。ちなみに自宅は学校の目と鼻の先にある。
アルクは休み時間はいつも一人でボール遊びをしていた。そんな生活が一年半続いた時、ティアと出会ったのだ。アルクにとってティアはまさしく女神だった。

「そういうことがあったんだ・・・。」
ティアは涙を浮かべてアルクの身の上話を聞いていた。エメラルドグリーンのティアの美しい瞳に涙が揺らめいているのを見た瞬間、アルクの胸がドキッと高鳴る。それをごまかすように
「ティアはお父さんお母さんに会いたくないの?寮に入っていると会いたくなるでしょう?」
「お父さんは私が1歳の時に死んでしまったの。お母さんと会いたいけれど感謝祭まで我慢する。」
寮に入ったら秋の感謝祭がある2週間だけ実家に帰ることが許されている。その期間だけ家族に会えるのだ。まめに会っていると里心がついてしまう、そうなると過酷な訓練についていけなくなるからだ。この学校に入ると決めたらそれだけの覚悟がいる。
「そっか・・・。ティアも寂しんだね。」
「一人前の結界師になれるまで頑張る、そうお母さんと約束したの。それにアルクがいるから全然寂しくないよ。」
ティアが無邪気な笑顔で言った。アルクの心臓が高鳴り続ける。
「ぼ・・・僕もティアがいるから全然寂しくない!」
二人は顔を見合わせて笑いあった。
それから二人は休み時間、放課後と時間を見つけては一緒に遊ぶようになった。ティアとアルクの表情がどんどん明るくなっていく。


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