それから三年の月日が経った。 ここはジャポネ国。緑豊かな山と青い海に囲まれた自然豊かな土地で二人は暮らしている。クリーム色の塗り壁にオレンジ色の屋根、玄関先は色彩豊かな花々が咲き乱れている。 この一軒家はティアとアルクの愛の巣だ。 「ティアー!アルクー!いないの?」 小学生くらいの男の子と女の子が元気な声を張り上げている。だが家の中から返答はない。 子供たちは手に抱えるのもやっとなくらいの大きなとうもろこしを幾度となく落としそうになりながら呼び鈴を鳴らした。 「やっぱりいないねー。」 「きっと裏の畑にいるんだよ!」 「そうだね!」 子供たちは嬉しそうに家の囲いを辿り裏庭に回った。 案の定、ティアとアルクがいた。二人は体や服のあちらこちらを土で汚しながら畑仕事をしている 「ティア!アルク!これ、うちで採れたとうもろこし。お母さんが持っていけって。」 子供たちは兄弟だ。日ごろから仲良くしている隣人たちがこうして畑で採れたものをおすそわけしてくれるのだ。 「ありがとう、サオタ、アン。お母さんにありがとうって伝えてね。」 ティアは優しいまなざしで子供たちを見つめ、黄金色に輝くとうもろこしを6本も貰った。 「ありがとうな。そうだ、お父さんの足の捻挫はもう大丈夫か?」 「うん、もう治ったよ。この前お父さんを病院まで連れて行ってくれてありがとう。お父さんも助かったと言っていた。」 「そうか、それは良かった。」 アルクも笑顔で答える。 すると今度はティアが収穫したてのトマトを籠から取り出し 「これ、うちのも美味しく出来たんだ。持って行ってくれる?」 「いいの!?」 サオタとアンは瞳を輝かせながらティアからルビー色に輝くトマトを受けとった。 「「ありがとう!!」」 するとアンが突如甘えるようにティアの脚に抱きついてきた。 「ティア、また絵本読んでね。」 かわいい目をさらに丸くしておねだりしてくる。ティアは微笑みながら 「うん、いつでも読んであげるよ。」 「わーい!!」 アンは嬉しさのあまりぴょんぴょん飛び跳ねている。その度にトマトが零れ落ちるからティアとアルクはそれを拾って渡すのが大変だ。 「じゃあまた来るねー!」 「また来るねー!」 サオタとアンは、はしゃぎながら来た道を引き返していった。二人は兄弟の後姿を優しく見送る。 「相変わらずあの子らは元気いっぱいだな。まるでつむじ風だ。ぱっと来てさっと去っていく。」 アルクが感心しながら呟いた。 「うん、私もいつもあの子たちから元気をもらっているわ。」 ティアが優しいまなざしで言えばアルクが急に真顔になった。ティアはそれを見てちょっと不安になる。 「アルクどうしたの?」 「俺はいつもティアから元気をもらっている。」 ティアはそれを聞いて思わず吹き出した。 「いきなり真面目な顔して何を言いだすのかと思ったら。日に当てられてのぼせちゃった?」 ティアが笑いながらからかう。 しかしアルクはじぃっとティアの顔を見つめ、そうかと思っていたらいきなりティアの腰に手を回し自分へと抱き寄せた。 「ちょ・・・。アルクの服汚れるよ。」 ティアはアルクを気遣うがアルクはおかまいなしだ。 「構わない。とっくに汚れている。」 ティアが照れたように微笑めばアルクはそっと顔を寄せてくる。子供たちはもう帰った。今二人を見ているのはお天道様だけだ。いつものように甘いくちづけを余すことなく収穫する。
ティアの体はすっかり女性の体になっていた。胸は膨らみ、体のラインはビーナス像のようになだらかな流線形を描く。キャロットスカートの中に隠されている脚も美しく、どこからどうみても女性。両性体の時にあった男性の象徴は退化し影も形もない。甘い口づけを終え、頬を赤らめたティア。 「アルク、このとうもろこしで今夜はコーンシチューを作るわ。」 「そうか、それは楽しみだな。ティアのコーンシチューは絶品だから。」 「オムレツはアルク担当だから。」 「まかせておけ。なんせ150年作り続けた年季の入ったオムレツだ。まずいわけがない。」 「もう、そればっかり。」 二人は顔を見合わせて笑いあった。 「中へ入ろう。」 「うん。」 ティアとアルクは手を繋ぎながら家へと入っていった。
ティアとアルクはとても幸せな人生を送っている。 畑仕事が主な仕事。たまに魔物退治の依頼を受け、呼び出されることがある。 結論を言えば両性体でなくなったら魔力がなくなるというのは単なるティアの思い込みだった。今でも封印結界、治療が出来るというのは変わらずにいた。
アルクとティアはいつも共にある。片腕がないとはいえアルクは強い騎士だ。そしてティアも魔剣を持ちアルクの片腕となってアルクの援護に入る。 だがなにより魔王が剣の中に再び封印されたことによって魔物たちの魔力もすっかり弱くなってしまった。 近頃は人間界に降りても追いやられるか抹殺されるだけと悟ったらしく魔界でくすぶっている。人間界に降りてきて悪さをすることもめっきり減った。 おかげで魔物退治や封印を行う機会もほとんどなくなり二人は畑仕事や読書をしながら穏やかに暮らしている。 月に一度、一週間ほどユイハに呼び出されて魔法学校の臨時講師もやったりしてそれが貴重な収入源にもなっている。もちろん二人は片時も離れず寄り添っている。 今まで想像を絶する過酷な運命の中を息も絶え絶えに生きて来たティアとアルク。147年という気が遠くなるような孤独の日々を埋め合わせるように二人は来る日も来る日も愛し合った。身も心も全力でお互いを求めあい、支え支えられ、見つめ合い、寄り添い、抱きしめあい、確認し合う。 愛とはなんたるものかを一歩一歩己の生涯に刻みながら残された限りある人生をこれからも二人で歩んでいくのだ。
もうなにものもティアとアルクの仲を引き裂くことは出来ない。例え魔王でさえも。
愛とはこんなにも深く、強い。 雲が流れ、風がたそがれ、人間は死に、放置された廃墟が砂と化しても、愛だけはいつまでもこの世界で生きつづける。
この物語は命がけで人類を守った一人の人間とその人間を何百年と飽きることなく愛し、 愛された恋人たちの幸福な物語だ。
終わり
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