ステンドグラスを通った柔らかな日差しが包み込む教会。その地下室に魔剣が祀られている。魔王が封印されている剣だ。魔剣が飾られている台の四隅にはかがり火があり、炎の影がゆらうゆらと壁に揺らめいていた。 かがり火は封印系と攻撃系と操作系が魔力を込め練り上げたもので魔王を外に出さないように封印する役目を果たしている。 万が一魔王が魔剣から出てきてしまった時のことを考えてこうして二重対策しているのだ。
部屋の中にはユイハがいて魔剣を見つめていた。その瞳には憂いがある。 「魔王よ、聞こえるか。」 ユイハが魔剣に語り掛けた。するとその問いかけに応えるかのように魔剣が小さく震えだす。 カタカタカタ・・・。 「魔王、そなたはまたしても人間に負けたのだ。」 ガタガタガタ・・・。 ユイハの言葉に魔王が怒ったのか魔剣の振動がいきなり大きくなった。しかしユイハは動じない。 「我々人間には誰しも守りたい大切な者がいる。その想いにそなたは負けたのだ。」 ガタガタガタ・・・・。 「そなたがティアの結界から出てこようとした時、他の魔物たちはここに来ようとしなかった。それはなぜか。」 ガタガタガタ・・・ガ・・・。 「もしそなたを守りたいという想いを持つ者が一人でもいたら、そなたはティアの結界を破りこの世界を支配出来たかもしれない。」 ガタ・・・ガタ・・・。 「しかしそなたは今、その魔剣の中にいる。駆けつける者もいない。おそらく魔物たちは新しい魔王の誕生を待っているのであろう。そなたは見限られたのだ。」 ガタガガタガタガタガ・・・!!!ユイハから容赦ない言葉を突き付けられた途端、魔剣はこれまでにないほどに大きく揺れ始めた。憤怒の感情が剣から怒涛の如く放出されている。 「仮にその剣から出ることが出来てもそなたについていく者はいないだろう。」 ガタガタ・・・ガタ・・・! 「もし魔王に誰かを想う気持ちがあったなら、その誰かも魔王を想ってそなたの帰還を待つ者がいたかもしれない。恐怖政治で他を支配してもそれは脅迫で抑えつけているだけに過ぎない。そなたが必要とされることは永遠にない、永遠に。」 ガタガタ・・・・。 魔剣の震えが心なしか小さくなっていく。 「与えなければ貰えることもない。それは魔物も人間も関係ない、我々はそういう世界で生きているのだ。まぁこんなことそなたに言っても仕方がないことだが。」 カタカタ・・・。 「これからはその剣の中でゆっくりとこれからのことを考えるといい。時間はたっぷりある、誰に邪魔されることもないだろう。」 ・・・・・。 やがて剣の震えは止まった。 あれほど漂ってきていた怒りの感情はいつしか消え、今あるのは憂いだけ。 ユイハは複雑な心境で魔剣、いや、魔王を見つめた。結局魔王も多くの魔物たちに利用されていただけかもしれない。
利用され、役に立たないと思われた途端に見捨てられる。これは人間界でもよくあることだ。世の中の不条理だが仕方がない。 それが世の中というものだ。 魔王の憂いを感じ取ったユイハは密かに同情して小さくため息をついた。 「安らかに眠れ、魔王よ。」 そう一言言い残してユイハは魔剣を残して部屋を出た。
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