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作品名:魔王の器候補は両性体 作者:雲のみなと

第6回   6
原因はコナーとミズリーである。コナーとミズリーは双子の姉妹。コナー・ウィルソン、ミズリー・ウィルソンは世界でも有名な家系の生まれだ。
というのもこのウィルソン一家は先祖代々魔力を持つ家系で魔術師たちでその一家の名を知らない者はいない。
魔物退治で貢献している為、ウィルソン一家はその地位と名誉を確固たるものにしていた。なのでウィルソン一家に睨まれたら魔術師界では生きていけないと言われている。

コナーとミズリーはウィルソン家に生まれながらも魔力の発動が13歳と遅かった。だからこの学校に入学してきた時期もティアと一か月しか違わない。それでもウィルソンという後ろ盾は強く、生徒皆がコナーたちの言うことを聞かざるえなかった。
内心ティアと仲良くしたい、友達になりたいと思っている生徒はいたがティアに声を掛けようとするとコナーとミズリーがすかさずギロリと睨んでくるのだ。「ティアと仲良くすればどうなるか分かっているんだろうな」という無言の圧力をかけてくる。だから皆怖くてティアに声が掛けられないのだ。

しかし不幸中の幸いかコナーとミズリーはそれほど魔力が強くはない為、ウィルソン一家の中で二人はさほど重要視されていない存在だ。
実力が物を言う世界。コナーたちの両親は、「ティアを退学させて」というコナーの嘆願に聞く耳を持たなかった。娘が同級生に嫉妬しているだけというのを見抜いていたのだろう。我が子可愛さに才能ある子を退学などさせたらウィルソン一家の名に傷がつく。両親はコナーとミズリーに
「悔しかったら実力でその子を打ち負かしなさい。」と説いた。それがコナーたちにとって益々面白くないのだ。

クラスメイトにはジョルジュというリーダー的存在がいて正義感からかコナーたちの背景に怯むことなくそんなことやめろとコナーたちに何回も説いたが、彼女らは聞く耳を持たない。
そうこうしている内にジョルジュは進級してしまったのだ。入学してから一年後に進級することになっているから仕方がない。
ティナは友達が出来ずに孤独だった。ロマンもカイトもトーマスも声を掛けてくれない。こちらから声を掛けようとすると避けられる。寮に帰っても独りだ。というのも寮は二人で一部屋を使うことになっている。しかし両性体であるティアは男性と同じ部屋にすることは出来ず、かといって女性と一緒の部屋にもなれない。
よってティアだけ特別に一部屋を一人で使っていいことになった。それもコナーたちとっては気に食わないことの一つだった。

そうして入学してから三か月の月日が流れた。相変わらずティアはひとりぼっちだ。この状況を教師たちも把握していた。
しかしどうすることも出来ない。出来ないというよりあえて何もしないのだ。なぜならここは普通の学校ではない、魔法学校だからだ。

ここに入学してくる生徒たちは皆一人前の魔術師になるべく集まって来る。一人の人間として成長することも大切だが何よりも重要視されることは卒業する頃には一人前の魔術師になっていること。入学してから10年経てば強制的にこの学校を卒業させられる。
そこから始まるのは魔術師として魔物と対峙し、闘い抜く人生。魔物との闘いは常に孤独だ。そこには助けてくれる教師はいない。自分の身は自分で守らなければならないし、退いたら大勢の人間が魔物にやられてしまう、そんな瀬戸際で生きていかなければならないのだ。
だからどんなに幼かろうと自分の問題は自分の力だけで解決しなければならない。それが例えいじめのようなものであったとしても。それがこの学校の教育方針だ。

そしてもう一つ、教師が生徒のプライバシーに深く立ち入れない事情がある。それはこの学校の特殊なシステムのせいである。
普通の学校なら4月に入学したらクラスメイトは全員一斉に一年後に進級する。しかしこの学校は入学してくる月も年齢もバラバラなのである。そして進級するのは入学してから丸一年後と決まっている。
だからクラスメイトになってもジョルジュのように数か月後に進級していく者もいれば半年後に進級する同級生もいる。一年同じ顔触れということはまずないのだ。そういう特殊な事情がクラスメイト同士の繋がりを希薄にしている側面もある。これがクラスの雰囲気を改善しにくい状況を作りだしているのだ。

仮にこれが普通の人間の学校なら教師が親身になっていじめられている生徒たちの心のケアーをし、いじめをなくす為に命がけで取り組むべきなのだが。生徒の命と未来がかかっているのだから。
不幸中の幸いか、ティアは身体的暴力や言葉の暴力を受けることはなかった。ただ友達が出来ない環境が続いていた。それが一番精神的に辛いことかもしれないが・・・。
そのことにローレイも気づいていた。なんとかしてあげたいと思いつつ手をこまねいている毎日。

ある日の昼休みだ。ティアは中庭の芝生に座り一人で本を読んでいた。ここで本を読むのがティアの日課になっていた。本の中に没頭していると自分が独りということを忘れられる。ティアにとっては孤独から解放されるひと時だ。
そんな時、ローレイはティアの姿を見かけた。そっとティアの隣に腰をかける。
「ティア、またその本を読んでいるのかい?」
「うん。この本大好きなの。何回読んでも飽きない。」
ティアは嬉しそうに答えた。その屈託のない笑顔にローレイの胸が痛む。
「・・・ティア。」
「なに?」
「この学校に入って後悔していないかい?」
ローレイは思わず聞いてしまった。聞かずにはいられなかった。するとティアは不思議そうな表情をした。そして迷いのない真っすぐに輝く瞳でこう答えたのである。
「後悔していないよ。私は一人前の結界師になりたいの。早く皆を守れるようになりたい。たくさんの人たちを守れるようになりたいからここにいたいの。」
「・・・そうか。楽しみだな。早く一人前の結界師になりなさい。」
「うん!!」
嘘偽りのないティアの強いまなざし。ローレイは心にぐっとこみあげるものを感じた。その想いを手に込め、優しくティアの頭を撫でた。優しい風が中庭を抜けていく。

それからまた三か月が経ったこの日、ティアはついに運命的な出会いを果たすことになる。

いつものごとくティアは昼休みを中庭で一人で過ごしていた。もちろんその手の中には大好きな本がある。ティアが夢中になって本を読んでいると足元にボールが転がってきた。
それに気づいたティアはそっとボールを拾い上げた。ふとボールが転がってきた方向を見るとそこには一人の男の子が立ちつくしていた。
年齢はティアと同じくらいである。茶色のさらさらの髪によく日焼けした肌。いかにも健康そうな男の子だ。男の子は丸い目をさらに丸くしてティアのことを見ている。
「これあなたのボール?」
ティアが尋ねると男の子は大きく頷いた。ティアはにこっと笑いかけボールを持って男の子の元へ歩み寄った。ボールを差し出す。
「はい。」
「ありがとう。」
男の子は照れくさそうにボールを受け取った。その時ティアの視界になにげなく男の子の背後が映った。誰もいない校庭。だだっ広い校庭をそよ風が流れていくだけの風景。


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