時間は留まることなくひたすら流れていく。時間というものはどうしてこうも容赦がないのか。 それからまた半年経ったある日、ローレイとポールはティアが眠る部屋に入った。 いつものように辺りを見回す。 「ここのところアルクの姿が見えないな。」 「はい、一か月ほど前から姿を見ませんな。」 「アルクもやっと新しい人生を歩み始めたか。」 ローレイは心の底からほっとした。あのままティアの傍で屍のように生きるアルクを見るのは心底辛かった。これで少しはアルクも苦しみから解放されるといい、ローレイは心からそう願った。 その時だった。部屋の扉がギギギっと鈍い音を立てながら開いた。そこに立っていたのはアルクだった。 「「なっ!!?」」 ローレイとポールは酷く驚愕して立ちすくんでいる。アルクがまたここに舞い戻ってきたことにではない、アルクの左腕が肩からすっぽりないことに愕然している。 「アルク!!その左腕はどうしたのだ!?魔物にやられたか!!」 「いいえ。」 アルクは全く動じず風のない湖面のように薙いだ表情で否定した。 「では一体・・・。」 この落ち着き、この覚悟めいた瞳、何よりアルクの体からあるはずのない魔力が匂ってくる。 「まさか!!」 ローレイは鬼のような形相でアルクを問い詰める。 「まさかお前!黒魔術と取引したのか!!」 「黒魔術・・・!」 ポールも察した。アルクは黒魔術師の所へ行って取引をしたのだ。あるものを手に入れる為の代償として自分の左腕を切り落とし差し出す。そのあるものとは。 「なんと愚かなことを!左腕を犠牲にして不老不死になったのか!!」 アルクはローレイの問い詰めに頷いた。ローレイは唖然として足元をふらつかせた。 「不老不死になるということがどういうことか分かっているのか。この先出来るであろう家族、友人、知人、仲間たちがお前を残してどんどん天国に旅立っていくんだぞ。それをお前はひたすら見送ることしか出来ない。それがどれほどの孤独であるか!」 「それでもいいんです。俺はティアが目を覚ました時に一番最初にティアの瞳に映りたい。ずっとティアの傍にいたい。その為なら永遠に終わらないかもしれない孤独だって乗り越えて見せる。」 アルクはそう言いながら悲し気に微笑んだ。ローレイとポールは言葉を失う。背筋に寒いものを感じた。これは狂気だ。愛という名の恐ろしいまでの狂気。 「それほどまでにティアを愛しているのか。」 ローレイはもはやアルクを説得することを諦めざるえなかった。
時間はまた流れていく。10年、20年、50年と月日が流れ、季節が去り、また新しい季節が訪れる。 ローレイもポールもホゼもトレイもジョルジュやコナーたちも当たり前のように年を取り、そして天国へと旅立っていった。アルク一人だけを残して・・・。 風の噂ではラッセルは一生独身のままで根無し草のようなその生涯を閉じたらしい。 チャオロの町民たちは子から孫へ、孫からひ孫へと代替わりしいつしかティアとアルクの名前を口に出す者もいなくなった。 こうしてティアとアルクのことは人々の記憶から忘れさられていった。
アルクは今日もティアが眠りから覚めるのを待っている。
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