ビレモをはじめ魔物たちは全員唖然としていた。こんなことがあっていいのか。 いや、いいはずがない。一体何が起こったというのだ。
魔王が封印された。
魔王は一人の人間に負けたのだ。
なんと情けない。なんという恥だ。
魔物たちの間に広がる動揺と魔王への失望感。 元々魔物たちは魔王個体への忠誠心で器を探していたわけではない。所詮自分たちにとって魔王は魔力を増大してくれる装置でしかないのだ。 だから協力もした。忠誠心も見せた。 しかしあれだけ恐怖政治を敷いた魔王が人間の小娘一人に封印されたという現実。これは魔物たちにはとてつもない衝撃であり、また魔王への忠誠心を失うには十分すぎる出来事だ。魔王といえど魔物の世界では弱肉強食の一員、弱者がより強い者に食われただけのこと。 ビレモがうんざりしながら呟いた。 「魔王が人間に負けちまったよ。」 「あぁ、あんなのはもはや魔王ではない。俺たちが忠誠を尽くす価値ないな。」 「まぁな。まぁいいや、俺たちは俺たちで適当にやろうぜ。」 「新しい魔王が誕生するのを待つか?」 もう一人のビレモはまだ人間界の支配を諦めきれないらしい。しかし 「あぁ?新しい魔王なんてそう簡単に誕生するかよ。それこそ魔王の器を探すよりずっと難しいぜ?」 「・・・それもそうだな。あぁなんてつまらない結末だ!」 「まぁそう言うな。封印された魔王がいつか封印を破って出てくるかもしれんし。」 「そうなったらお前、何事もなかったかのようにあの魔王にまた従えるのか?」 ビレモが試すように聞いてきた。しばらく逡巡したが。 「勘弁してくれ、人間に一度負けた魔王に再び仕えるほど俺はお人よしではないぜ。」 「そりゃあそうだろうな。俺もだ。」 魔物たちに義理という観念はない。あるのは支配するかされるか、だ。 その一方でカウナやヨハイのように他者に深い情を持つ魔物もいる。魔物といえど様々なのだ。 ビレモたちはなんの未練もなくダリジャンの国から去って行った。それにつられるように他の魔物たちも世界中に散らばっていった。
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