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作品名:魔王の器候補は両性体 作者:雲のみなと

第45回   45
ローレイは魔王の器のことを皆に説明した。魔王はずっと人間界に来る機会を伺ってきたこと。人間界に来るのは人間の体が必要だが魔王の強烈な魔力に耐えられる体はそうそうないこと。
器になる条件として魔王の魔力に匹敵する魔力があることと治癒系であることなどを話した。ティアは世界で唯一その条件に当てはまっている、しかしそのことを魔王に知られないように魔力の威力を半減させ治癒系の能力をも封印されてきたこと。
魔王が今この時もティアの体を狙っていることすべてを話した。
「そんな・・・。」
ローレイとトレイを除くその場にいる全員が顔を強張らせた。だが誰よりも衝撃を受けたのはティアだ。
「・・・魔王にこの体を乗っ取られるということですか?・・・。」
ティアは震える声でようやく言葉を紡いだ。ローレイは苦渋に満ちた表情で声を絞り出す。
「そうだ。そして魔王に憑依された瞬間から人間の心を破壊され記憶を失うだろう。魔王の操り人形となって人間界を支配する。」
「そんな・・・。」
ティアの顔から血の気が引いていく。ジョルジュたちも到底信じられないこと、信じたくないことを聞いて体中が震えてくる。よりによってあんなに優しいティアが魔王になってしまうなんて。
「私は人の心を失って魔王の思うまま皆を殺戮し多くの人々を殺しこの世界を支配するということですか・・・。嘘ですよね・・・・。そんなの嘘だと言って下さい!ローレイ様の作り話でしょう!?」
ティアはローレイに否定して欲しくて必死で縋りついた。だがローレイは残酷にも首を横に振った。
「作り話ならどんなに良かったか。しかしそなたの能力が今まで封印されていたことは紛れもない事実だ。ティアの母親がそのことをなんらかの事情で知って、ティアを守るために封印をしたのだろう。だからこれは現実なのだよ、ティア。」
ローレイの言葉はいわば死刑宣告のようなものだ。いや、死刑になることよりずっと辛くて苦しい。人間たちを大切に思い守り続けたその手で今度は人々を殺していくのだから。

だがティアは諦めない。なんとかしてこの絶体絶命の非常事態を避ける方法はないのか、それこそ必死で考えた。そして思いついた。
「だったら魔王を封印します。」
「!?」
ローレイたちは思いもしなかった提案に息をのんだ。
「魔王を封印・・・。」
「はい。今の私の魔力が魔王に匹敵するほどのものなら魔王を封印出来るはずです。私は結界師なのですから。」
ティアの提案に皆が色めき立つ。そうだ、今のティアの力を持ってすれば魔王でさえも封印出来るはず。期待と希望がどんどん膨れ上がって来る。だがローレイだけは沈痛な面持ちで佇むだけ。
「ティア、それは無理だ。」
「なぜですか!!」
「どうやって魔王の元へたどり着いて封印するのだ。魔界に行くのか。魔界がどこにあるのか誰も知らない、我々も知らないのだ。」
「だったらヨハイやカウナたちに魔王の元へ案内させればいいのでは?」
トレイが提案した。ジョルジュもそれに続く。
「言われてみればティアの言う通りです。魔物たちは魔王の元へティアを連れて行こうとしている。だったら逆にそれを利用して魔王の元へ行って封印すればいい。」
ジョルジュが名案とばかりに自信満々に言ったが。
「それは無理な話だ。」
ローレイはまたもや否定した。
「だからどうして!!さっきからやらない内に無理だと言うばかりでローレイ様らしくない!」
皆が苛立ちローレイを責め立てた。
「カウナとヨハイが教えてくれたんだ。魔界の中では結界が発動しなのだ。魔界は魔物たちのもの。結界や封印は人間たちが人間界で行うもの。魔王が人間界の大気の中では生きられないように人間にもどうしても立ち入ることが出来ない領域がある。」
「そんな馬鹿な・・・。」
「打つ手なしか・・・。」
一同が愕然とする。それでもティアは諦めない。
「それなら人間界でこの体の中に魔王を封印します。」
一同が目を見開いた。
「ティアなんてことを言いだすんだ!!」
「だってそれしか方法はないんです。魔界で封印が出来ないのなら魔王を人間界に呼び出して。」
「どうやって魔王をおびき出すというのだ。」
「この体を使って。」
「!!」
「魔王の器が私だと分かったならかえって都合がいい。魔王がこの体を乗っ取りに来た瞬間を狙って封印します。」
ティアは揺るぎない決意を込めた眼差しでローレイを見つめながら言い切った。その強い眼差しは結界師というよりまるで闘神だ。
ローレイの心が打ち震える。ティアはこれほどまでにも強くこの世界を守りたいと思っているのだ。魔王にひるむことも怯えることもなくただ必死に人間たちを守ろうとしている。でも・・・。
「ティア、よく聞いてくれ。確かに今のティアの魔力は魔王に匹敵している。しかしそれはあくまでも魔王の魔力に耐えられる体だということだけだ。治癒系の魔力が魔王の憑依によって破壊される細胞を治していくというだけ。魔王そのものを攻撃出来るわけではない。」
「攻撃ではなく封印をすると言っているのです!!」
ティアは必死で食い下がる。ローレイは心を締め付けられながらもやっとの思いで言葉を繋ぐ。
「魔王は危険を冒さない。人間界の大気に触れるのを回避するだろう。よって人間界には降臨しない。だからティアが魔界に行くしか魔王に近づく方法はなく、だが魔界では結界の力は使えない。どうすることも出来ないんだ。」
「・・・・。」
ティアは絶望で言葉を失った。顔面蒼白で体中が小刻みに震えている。
もはや打つ手なしか・・・。先の見えない暗闇が死への誘いとなって皆を絶望の柱に縛り付ける。
「ではティアを魔物たちの手の届かない場所へと連れていきましょう。魔王の手に渡してなるものか!」
「そうよ!皆でティアを守ればいいのよ!私たちなら出来るわ!そうじゃなかったらなんの為にこの魔力を持って生まれてきたのか分からない。私たちはティアを魔王から守るために生まれてきたんだわ!ティアを一生守るわ!」
「そうだ!そうだ!ローレイ様!世界中の魔術師たちをここに集結させてティアを守りましょう!」
皆が一縷の望みに縋って必死に訴えた。皆の言葉を聞いているティアの瞳から涙がこぼれた。皆はこれほどまでに自分のことを思ってくれている。守ってくれようとしている。それだけで嬉しかった。それだけでこの世界に生まれてきた甲斐があったというもの。

ズシーン・・・!
突如神殿が激しく揺れた。柱という柱にひびが入って今にも建物は崩れ落ちそうだ。
「ローレイ様!ティアに結界を張らせてください!私の結界ではもう・・・!」
コナーの悲痛な訴えを耳にしたティアはすぐさま結界を張った。すると建物の揺れは嘘のように鎮まり魔物たちの鳴き声も聞こえなくなった。
だがずっとこうしているわけにはいかないのだ。皆はティアを守るためならそれぞれの生活、人生を犠牲にしてティアの元にいようとするだろう。それを思うとティアの心は激しく痛んだ。

皆を犠牲には出来ない・・・。



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