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作品名:魔王の器候補は両性体 作者:雲のみなと

第43回   43
空は黒く分厚い雲に覆われ、太陽が姿を消してしまった。生温かくて不気味な風が吹き抜けていく。
するとなんということか、鬱蒼と生い茂った森の奥から魔物の匂いがぷんぷんと漂ってきた。ローレイたちに緊張が走る。
「魔物が来るぞ。」
トレイが呟いた。ヘロンに帰る前に見つかってしまったか。ローレイはもう少し早くここから立ち去っていたらと心の中で後悔した。ティアたちが息をのむ。
ローレイが刃のような鋭いまなざしで森の奥を見据えた。
続いてトレイが森の奥に向かって魔力が籠った弓矢を構えた。いよいよ闘いの時がくる。ティアやジョルジュたちも己の魔力を高めていく。
「来た!!」
トーマスが叫んだ。おびただしい数の魔物たちが一斉に襲いかかって来る。
「うわぁものすごい数の魔物たちだな。まるで魔物の見本市だ。」
ジュルジュが呑気なことを呟く。
「なに呑気なこと言っているのよ!早く攻撃しなさいよ!あんたの専売特許でしょ!」
コナーがキレながらけしかける。
「分かってるって!」
ジュルジュが向かってくる魔物に向かって手を差し出した。手のひらから風が沸きあがりすぐにそれは凄まじい突風となって魔物たちを薙ぎ飛ばした。
ギャァヤヤヤヤ!!
魔物たちの悲鳴が充満した。
「ジョルジュよくやった!トレイ!我々も行くぞ!」
「了解!!」
ローレイは熾烈な炎を作り出し魔物たちを焼き尽くす。トレイは次から次へと矢を放ち空から滑降してくる魔物たちを撃ち落としていった。

しかし魔物は後から後から途切れなく襲いかかってくる。ティアはすぐさま結界を作り出し攻撃力を持たないトーマスやマリーを守っている。そんな中、ドムナがジョルジュに狙いを定め魔毒を勢いよく吐き出した。
「コナー!ジョルジュが!」
「OK!」
ティアの声にコナーはすぐさま反応しジョルジュの周りに結界を張った。魔毒は結界によって間一髪弾かれた。ティアとコナーは攻撃を受ける魔術師たちの周りに結界を張ることに奔走した。

その時だ。森の樹々をなぎ倒しながら恐竜のようなデカイ魔物が飛んできたかと思うといきなりものすごい火炎を放射してきた。
「うわっ!!」
思わずジョルジュがひるんだ。今までとは比べものにならない炎をもろにくらいコナーの結界が破られてしまう。
「きゃあ!」
破られた衝撃波がコナーを襲い悲鳴を上げた。
しかし魔物の強烈な炎はジョルジュたちには届かなかった。とっさにティアが巨大な結界を張りその場にいる全員を守ったのだ。魔物がこれでもかと炎を吐き続けるが結界はびくともしない。ローレイは結界の中から外を眺め感心しながら言う。
「さすがにティアの結界は凄いな。」
「あぁお前から話を聞いていたがこれほどまでとは。」
トレイも感嘆している。
だがいくら安全だからといってこのまま結界の中に閉じこもっているわけにはいかない。外から攻撃をされないが中からも攻撃出来ないからだ。
「ティア結界を解いてくれ。反撃する。」
ローレイが強いまなざしで言った。
「でも・・・。」
ティアは戸惑っている。魔物の数は今までみたことないくらいにここに集結している。これだけの数の魔物を自分たちだけで相手出来るのだろうか。
そんなティアの不安を察したジョルジュは
「心配するなって。俺たちを信じろ。」
「・・・分かった。」
ティアは信じることにした。結界を解いた。その瞬間から人間対魔物の激しい攻防戦が繰り広げられた。

闘いは壮絶さを極めた。怪我をした者がいたらすぐさま治癒系のマリーが駆け寄って治療を開始する。治療が済んだ者はすぐさま戦闘の最前線に躍り出るの繰り返しだ。
トーマスは森の樹々に隠れている魔物の位置を透視をし、魔物たちがどの方向から攻撃して来るかを的確に皆に伝えつつ魔剣で魔物たちを倒していく。
そんな熾烈な戦闘の様子を少し離れたから見つめる二人の魔物がいた。ビレモだ。
「あの治癒系の女はどうだ?」
「いや、あの程度の魔力では魔王の器にはなれん。」
「本当にこの中にいるのか?どれもこれも魔王の魔力の足元にも及ばないではないか。」
「魔王がそう言っているのだから探すしかあるまい。今まで100年も器を探し続けてきたのにいっこうに見つからない。魔王が言うのには可能性として考えられるのは魔力を封印している、しかも治癒系であることを隠している若い人間だろうと。」
「なぜ魔王は若い人間に限定するんだ?」
「今まで魔力が最盛期の人間のみならず年寄りから赤ん坊まで治癒系に限定して探してきたのに見つからなかったからだろう。だったら治癒系にこだわらず範囲を広げここ十年くらいで比較的魔力が強い者の中から探す方が手っ取り早い。それに魔王だとて若い姿の方がいいだろうしな。永遠にその姿のままなんだからな。」
「それであの胸糞悪い学校を出た人間で若くて魔力が強そうな人間に狙いをつけたわけか。あいつらがあの学校にいる時も監視していたがどうりで見つからなかったはずだ。治癒系以外は除外してきたからな。」
「まぁそれでもこの中にいるとは限らないが、ここで見つからなくてもまた探すさ。」
「それで、その可能性がありそうなのはどの人間だと思う。」
「分からんな。ただあの銀髪の結界師は気になるな。相当強い魔力があるようだ。まぁそれでも魔王には到底敵わんが。」
「そういえばお前は綺麗な人間を冷凍保存してコレクションしているよなぁ。それであの銀髪を気に入ったんだろう?」
「まぁな。あの銀髪の女いいねぇ。あれになら仕えてもいい。」
陰惨で冷酷な笑みを浮かべる。
「試してみるか。」
「そうだな。」
そう言って懐から一本の矢を取り出した。
「それが最近手に入れたという『黒魔術の矢』か。魔力を持つ人間には見えない矢。魔力を持たない人間には見えるとかなんとか。」
「あぁ、黒魔術師が密かに隠し持っていた矢だ。対立する白魔術師を暗殺する為に作り出したらしい。人間というやつはつくづく怖い生き物だと思わないか。主義主張が自分と違うというだけで相手を殺しちまうんだから。」
「お前がそれを言うか。どうせその黒魔術師を殺して手に入れたんだろ?」
「当たり前だろう。生かしておく意味などない。さてと、とくと拝見するか。あの銀髪に治癒系の能力もあるならこれで死にかければ隠された能力を発揮するはずだ。」
「治癒系でなかったら死ぬだけ。」
「そういうこと。」
魔物は残酷な笑みを浮かべ弓を構えた。切っ先はティアに狙いが定められている。
そして。
ビュン!!
矢は凄まじい勢いで風を切り裂きティアめがけて飛んでいく。絶対絶命。

ドピュッ!!
突然、矢が人間の体に刺さった鈍い音が辺りに響いた。


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