アルクは一刻も早くティアに会いたくなった。会ってティアの無事をこの目で確かめたい。 アルクは身を翻しデッキから出て行こうとした。 「どこへ行くつもりじゃ!」 ホゼがアルクの背中に声を掛けた。 「ティアの所へ戻る!」 その言葉を聞いたホゼは心から安堵した。 「ティアを頼んだぞ。そなたらは共にあるべきだ。」 席に向かうアルクの背中にそっと語り掛けた。
アルクはナタリーには何も告げずに次の停車駅で降りた。そして反対側のホームに立ち汽車が来るのをひたすら待つ。早くティアの元へ!!心ばかりが先を急いで焦る。 「ティア、無事でいてくれ!」 必死で祈りながらやって来た汽車に飛び乗った。
それから二日目にようやく到着した。改札口を大急ぎで通り抜け一目散に二人が暮らした家に向かう。町の中を風のような速さで通り抜け、草原を駆け抜けようやく家の前に辿り着いた。ここを離れてまだ数日しか経っていないのにもう長いこと留守にしているような気がする。 「ティア、家にいてくれ!」と願いながら震える指で呼び鈴を鳴らすが応答はない。すぐさま胸のポケットに忍ばせていた合い鍵を取り出した。もう使うことはないと思っていたがどうしても捨てられずにいた。だってこれは二人が一緒に過ごした証だから。 鍵を開けすぐさま家の中に飛び込んだ。 「ティア!!」 家の中は静寂に満ちていて人の気配がまったくない。ティアの姿を求めて家中を探すがやはりどこにもいない。焦燥感がアルクを襲う。 リビングに戻るとテーブルの上に一枚の紙切れが置いてあるのに気づいた。歩み寄り紙切れを手に取る。それはティアの置手紙だった。 『アルクへ。私はダリジャン国のブロンの森へ行ってきます。どれくらいの期間になるか分からないのでシルクとサンダーの世話はボムに頼んでおきました。それとアルクが大好物のスコーンを作っておきました。冷蔵庫に入っているので温めて食べてください。アルク、本当にごめんなさい。』 愛しくてたまらないティアの文字がそこに綴られている。よく見ると手紙の端には涙が滲んだ跡があった。アルクの胸も締め付けられて涙で滲んでよく読めない。 ティアはどんな気持ちでこの手紙を書いたのであろう。 ティアはアルクが戻ってこないとは分かっていた。でも、もしかして戻ってきてくれるかもしれないという淡い期待を捨てきれずにいた。それで涙を流しながらこの手紙を残したのだ。アルクがこれを読むことがあるかもしれないと一縷の望みを託して。 アルクの心は苦しくて切なくて今にも張り裂けそうだ。 「ティア・・・!」 アルクは手紙をぎゅっと握りしめた。会いたくて会いたくて仕方がない。もう二度とティアと離れ離れになりたくない。アルクはティアよりもソダムを選ぼうとした己の軽率な行動を心底恨みながら懸命にティアの後を追った。
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