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作品名:魔王の器候補は両性体 作者:雲のみなと

第40回   40
その5日前のことだ。アルクは汽車に乗っていた。隣にはナタリーがいる。
ソダム国はアルクが住んでいた所からはとても遠くて到着するまで汽車で2日、それから船に乗って海を渡って全部で5日かかる。なので汽車は寝台列車だ。個室になっておりアルクとナタリーは二人きりだ。
ナタリーは何度かアルクをその気にさせようと色仕掛けをしたがアルクはその都度完全に無視をした。ナタリーは今日も肌の露出が高い服を着ていて、食堂車に行く度、男どもの視線を独り占めしている。
「ねぇアルク、よくぞソダムに行く決心をしてくれたわ。あなたはきっと歴史に名を残す偉大な騎士になるわ。」
しかしアルクはうんともすんとも言わない。それどころか厳しい表情をしながら車窓から流れる景色を見ているだけ。ナタリーは呆れた様子で肩をすぼめた。アルクはずっとこんな感じなのだ。ナタリーからすればちっとも面白くない。
「なによ、つまらない男ね。いいわ、他の男でも引っかけてこようーと。」
ナタリーは不機嫌そうに立ち上がり食堂車へと向かった。アルクはナタリーがいなくなってほっと溜息をついた。ナタリーといると息がつまりそうだった。というか他の誰といてもストレスになっている状態だ。

気分転換でもしようかとアルクも席を立った。食堂車ではなくデッキに向かう。この汽車は長旅用の汽車なのでデッキが備え付けられている。一車両を丸々デッキに改造してあるのだ。壁も屋根も取り払われていて景色が360度見渡せる仕様になっている。もちろん乗客の安全対策として汽車から落下しないように柵も長椅子も備え付けられている。
デッキには先客がいた。どうも見覚えのなる背中だ。アルクは近づいて声を掛ける。
「もしかしてホゼではないですか?」
「ん?」
振り向いた人物はやはりホゼだった。ホゼは目を丸くして驚いている。
「おぉアルク、どうしてここにいるのだ?わざわざタイラ国まで見送りきてくれたのか?」
「・・・いいえ。」
アルクは沈痛な面持ちで否定した。
「ならなぜ?というかティアはどうした?あぁ席にいるのか。それとも食堂車か、ティアは食いしん坊だからな。」
ホゼは勝手に納得している。しかしアルクは首を横に振った。
「ティアはこの汽車に乗っていません。ティアとは別れました。おそらくもう二度と会うことはない。」
「!!?」
ホゼはアルクの告白を聞いて驚愕している。唖然としていると言ってもいい。
「嘘じゃろ?」
ホゼは到底信じられないという顔をしている。
「嘘ではありません、本当のことです。俺はソダム騎士団に入隊するつもりです。」
「ソダムに!?」
ホゼはこれで理解した。アルクがこの汽車に乗っている理由もティアと離れ離れになる理由も。
ソダム国はタイラ国の隣国だ。同じ汽車に乗り合わせでも不思議ではない。そしてソダムは魔術師の入国を禁止していている国。アルクはソダム騎士団に入隊する為にティアとの別れを選んだということを察した。
ホゼの握りしめた拳が小刻みに震えてくる。これは怒りか。ホゼはアルクが見たことがないくらいの怒りを露わにして怒鳴った。
「なぜそなたはそんな馬鹿なことをした!そなたがティアの傍に常についているから安心してタイラに行くことにしたのに!」
「ホ・・・ホゼ?」
ホゼの変わりようにアルクは戸惑うばかり。ホゼの反応が尋常ではないからだ。
「こうしてはおれん。戻らねば!」
ホゼは慌てて自分の席に戻ろうとしている。アルクは思わずホゼの腕を掴んで引き留めた。
「一体どうしたというんです。ティアには強い魔力があり結界も張れる。自分の身は自分で守れます。何をそんなに不安になっているんですか。」
「・・・。」
ホゼは返す言葉に困っているようだ。説明出来ないことがティアにはあるというのか?アルクの心に嫌な予感が沸き上がってくる。
「とにかくわしは次の駅で降りる。そなたはソダムでもアダムでも好きな所へ行くといい!」
ホゼがアルクの手を振りほどき自分の席に戻ろうとした時だ。デッキに二人組の男がやって来た。アルクたちの耳に男たちの会話が入って来る。
「なぁ知っているか。ダリジャン国のブロン森に魔物が続々集まってきているらしいぜ。」
「ダリジャンのブロンの森って言えばかなりデカイ森じゃないか。木こりが住んでいるらしいが今度は木こりでも襲うのか?」
「さぁな。その木こりたちも不気味に感じて次から次へとブロンの森から逃げ出しているらしい。」
「そうなのか、なんだろうな、何が起こるんだ。不気味だぜ。」
「でもまぁ魔術師たちがなんとかしてくれるさ。現に俺の友人の魔術師にお呼びがかかったらしくてブロンの森へと向かったわ。」
「あぁ。お前の友人の魔術師って確かトーマスとかいったな。そいつか?」
聞き覚えのあるトーマスという名を耳にしたアルクはビクッと肩を震わせた。
「トーマスは透視系だから中々魔物退治の依頼はされないとかで拗ねていたがようやくお呼びがかかって喜び勇んで出かけて行ったよ。」
「そうか。まぁ招集された魔術師はトーマスだけではないだろうけどな。魔物たちが一堂に介しているなら逆に一網打尽に出来るチャンスだな。」
「トーマスが鼻高々で凱旋帰国してくる姿が今から目に見えるようだ。」
「言えている。」
二人は呑気に会話しながら笑っている。
しかしアルクとホゼはそれどころではなかった。特にアルクはトーマスをよく知っている。ティアの同級生だった男だ。お調子者のトーマスの話を楽しそうにしているティアの姿が今でも思い出される。果たしてこれは偶然か。ブロンの森に魔物たちが集結していてそこにティアの同級生が魔物退治を依頼され出掛けて行った。
もしかしてティアにも依頼が行ったのでは?そう考えたらいてもたってもいられなくなる。もしもティアになにかあったらという不安と恐怖で心臓が痛いくらいにバクバクしてきた。しかもホゼの口ぶりではティアにはなにか言えない秘密があるのが分かった。



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