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作品名:魔王の器候補は両性体 作者:雲のみなと

第38回   38
午後の日差しが降り注ぐヘロン学校でポールは一人忙しくしている。明日から生徒たちが戻って来るのだ。それまでに迎える準備を整えなければならない。
「あぁー忙しい。忙しい。こんな時に私一人が留守番か。教頭なんて損な役回りだ。」
ポールはぼやきながら書類を取りに自分の部屋に戻った。丁度その時、胸ポケットに忍ばせていた魔電話が小刻みに振動し始めた。
「はいはい。こんな忙しい時に誰ですかね、まったく迷惑な奴。」
ポールは面倒くさそうに魔電話を取り出した。
『ローレイだ。今すぐ調べて欲しいことがある。』
『ローレイ様!?』
思わぬ相手に焦って魔電話を落としそうなった。
『今すぐ卒業名簿を調べて欲しい。第11期生と第12期生のページがどうなっているか。』
「卒業名簿?第11期生と第12期生のページ?」
突拍子のない依頼に困惑するポール。
『説明は帰ってからする。とにかく急いでくれ。そのページを見た者が誰か調べてくれ。監視玉に映っていればてっとり早いのだがそう簡単にはいかないだろう。なのでなにかおかしな痕跡があったらどんなささいなことでもいいから報告して欲しい。知りたいのは魔物の気配があるかどうかだ。』
「魔物の気配!?」
ポールはこれはただ事ではないと察した。ティアは第11期生の卒業生だ。ティアに関係あるに違いないと思った。
「しかし校舎には結界が張ってあって魔物は入れません。ましてや卒業名簿が保管されている隠し部屋なんて蟻一匹入れませんよ。」
『そこなんだ。魔物たちは入れない。となると我ら人間の仕業ということになる。しかもこの校舎に部外者は入れない。ましてや厳重管理の隠し部屋となれば名簿を見ることが出来る人物はおのずと限られてくる。』
「まっ・・・まさか、教師の中に!?」
『残念だが我ら教師に中に裏切り者がいる。』
「なっなんと!?」
ポールは絶句した。まさか同僚に裏切り者がいるなんて。
『とにかく急いでくれ。』
「分かりました。」
ポールは魔電話を切ると教頭室を飛び出した。

廊下を走り抜け階段を駆け上がり校舎の最上階にある図書館に入った。図書館自体は生徒も教師も自由に出入り出来るが卒業名簿が保管されている部屋は隠し部屋になっていて、しかも暗証番号を入力しないと中に入れない。暗証番号を知っているのは教師だけだ。
ポールはすぐさま番号を入力し中へ入った。人一人がようやく入れるぐらいの広さしかない。卒業名簿は棚にあり、とりあえずほっとした。最悪盗まれているかもと心配していたのだ。
焦る気持ちを抑えながら卒業名簿を手に取った。一般的な学校と違って魔法学校の生徒数は極端に少ない。この学校が設立されてから16年経つが生徒数が少なければおのずと卒業生も少なくなるということだ。卒業名簿は一冊に収まっている。ポールは11期生と12期生のページを捲った。
「!?」
驚いた。いや予想していたこととも言える。そのページだけ切り取られ持ち去られていたのだ。
「やっぱり・・・!」
ポールは次に名簿におかしな点はないか調べた。魔物の気配はない。ページが持ち去られた以外に犯人の痕跡を残すものはなかった。ポールは考えた。
「これは透視系に探ってもらうしかないな。」
同僚の透視系にこの卒業名簿を見てもらって最近誰がこれを触ったか探ってもらうことにした。
一応念のためにと監視玉を再生させて不審者がいないか調べたがローレイの言う通り映っていなかった。この学校の教師ならどこに監視玉があるか周知しているから監視玉に映るようなへまはしないだろう。
ポールは階段を下り、教員室に向かった。教員名簿には教員の住所が載っている。その中から透視系でありこの近くに住むマトリの住所を探した。
魔電話を取り出した時だ。真っ青な顔をした教師が教員室に飛び込んできた。攻撃系のドルーだ。ドルーは尋常じゃないくらいに肩を上下して荒い息で呼吸している。ここまで全力疾走してきたのは火を見るより明らかだ。
「どうしたドルー。そんな息を切らして。」
「マトリが・・・!マトリが!」
「マトリ!?」
まさしくそのマトリに今連絡を取ろうとしていたのだ。
「マトリが遺体で発見された!!」
「なっ・・・!」
ポールはあまりの衝撃的な展開に言葉を失った。だが動揺しているだけでは埒が明かない。すぐさまドルーと共に警察署に向かう。
「一歩遅かったか・・・。」
ポールは悔し気な表情で呟いた。

警察署に到着するとポールはすぐさま遺体安置所に案内された。警察官がマトリの遺体の横でポールたちに説明を始めた。
「被害者が発見されたのはここから5キロ先のヨムドコロ川の川岸です。周りには藪が生い茂っていて人目につかない場所です。偶然釣り人が発見しました。死因は・・・。」
「犯人は魔物ですな。」
「はい、その通りです。」
ポールはマトリの遺体を一目みただけで犯人は魔物だと見抜いた。マトリの体からかすかに魔物の匂いがするのに気づいたのである。
例え匂いはなくとも魔物の仕業なのは一目瞭然だ。首に獣の咬み跡がくっきり残っている。この咬み跡の形状からして熊や野犬の類ではないのは確かだ。咬み裂かれて動脈から出血多量で亡くなったのではない。
細い管のようなものを差し込まれてそこから魔毒を注入されて心臓が停止したのだ。大きな牙を持つドムナの仕業ではないこと。遺体の損傷の少なさ、犯罪の痕跡の少なさから鑑みて相当知能の高い魔物がやったことなのは明らかだ。よって人型の魔物で細い牙を持つビレモだと推測された。
ポールは厄介なことになったと思った。野蛮で猪突猛進な低階級に属する魔物の方が行動が読めやすい分、対処しやすいのだ。
しかし犯人は知能が高い魔物。そこに辿り着くには困難を極めるだろう。すると警察は一つの情報を付け加えてきた。
「この被害者は手に100万ルダーもの大金を握りしめて亡くなっていました。」
「100万ルダー!?」
これは相当な大金だ。なぜそんな大金をマトリが握りしめていたのか。ポールが思案に暮れていると横にいるドルーが重い口を開いた。
「ポールは知らないかもしれないが、マトリは相当金に困っていたらしい。俺たち同僚にたびたび金の無心をしてきていたんだ。かなりの借金を抱えていたとも聞いたことがある。」
「それは本当なのか!?」
ポールは驚いた。初耳だからだ。
教師を雇う時にかなり厳重に身辺調査をするのでその時には借金は抱えていなかったはずだ。いつの間にそんなことになったんだとポールは頭を抱えた。
マトリは今から3年前にこの学校の教師になった。ローレイがスカウトしたわけではなくポールのスカウトでもない。マトリ自身が自分は透視系の能力があるので教師になりたいと売り込んできたのだ。それを受け入れたのがこんな悲劇につながったと思うとやるせない気持ちになった。
だがマトリは5年前に卒業したティアとは全く面識がない。4年前の卒業生のコナーたちともだ。それなのになぜティアたちをターゲットにしたのか。
全く意図が不明である。
「とにかくこのことをローレイ様に知らせないと。」
ポールは魔電話を取り出しローレイに連絡を取った。


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