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作品名:魔王の器候補は両性体 作者:雲のみなと

第33回   33
ここはヘロン魔法学校の校舎。廊下の窓から眺める校庭には誰もいない。ポールは並んで歩くローレイに話しかける。
「ローレイ様、生徒たちがいないとなんとも静かですな。」
「感謝祭の休暇に入っているからな。生徒たちは実家に帰っている。実家に帰りたくない、あるいは帰れない事情を抱えた生徒がニ、三人寮に残っているだけ。まぁ休暇が終われば生徒たちも戻って来るからまた賑やかになるさ。」
「2週間の休暇で生徒たちもリフレッシュ出来るでしょう。それはそうと魔王の器は一体どこにいるのでしょうね。我らがこんなに探しても見つからない。魔王も同じようだ。本当は器など存在しないのでは?都市伝説的な。」
ポールは希望的観測を述べたがローレイの考えは違っているようだ。
「いや、実は気になる人物が一人いる。」
「え!?」
ローレイの発言にポールは寝耳に水とばかりに驚いている。
「それは誰ですか?」
「ティアだ。」
「ティア!?5年前に卒業したあのティアですか?」
「なぜティアが器候補だと思うのですか。ティアは確かに印象に残っている生徒です。強力な魔力を持っていた。しかしいくら強いとはいえ魔王の魔力に耐えられるほどではありません。しかも彼女は結界系です。治癒系ならまだしも結界系では選択肢にそもそも入らないのでは?」
するとローレイはポールを真正面から見据え真剣な表情で
「ティアの体には二つの封印がされている。」
「二つの封印!?」
「そうだ。一つは魔力の強さを半減させる封印、そして二つの系統の内、一方の魔力は完全に封印されている。」
ローレイが告げる意外な言葉にポールは信じがたいと首を振った。
「いやいやありえないです。二つの系統の魔力とはどういうことですか?一人の人間に二つ以上の魔力が存在するなど聞いたことがない。第一、封印されていることに誰も気が付けないなんていうことがそもそもあり得ない。」
「確かに一人の人間が持つ系統は一つだ。だが遺伝子の突然変異が起きて二つの系統を持った人間が生まれてもおかしくはない。」
「いやしかしティアがここで過ごした9年間、誰一人としてティアに封印が施されていることに気づけないなんて信じられません。ローレイ様は気づいておられたのですか。」
「あぁ、ティアが入学してきた日に気づいた。」
「なんと!?」
「私でさえ細心の注意を払わなければ気づけなかった。あれほど巧妙な封印を施せるのはおそらくティアの母親だけだろう。」
「母親が・・・。」
「ティアの母親は世界でも有数の結界師だった。彼女ならあの封印をすることは可能だ。彼女は自分の娘が魔王の器になりうる強大な魔力と治癒系の能力を持っていることを危惧して幼いティアに封印をしたのであろう。魔王に気づかれないように。」
「封印されたもう一つの系統が治癒系という確かな証拠はあるのですか。」
「治癒系だという確かな証拠はない。だが何らかの系統が隠されているのは事実だ。まだ10歳の子供にあれほど厳重で巧妙な封印をする必要性はなんだ?しかもティア本人さえ封印されていることに気づいていない。そもそも治癒系でなかったら隠す必要などないはずだ。そこまで頑なに秘密を貫こうとする意図は?」
「なるほど、言われてみればそうですね。魔王に知られたくないということですか。ちなみに封印されていなかったとしたらティアの魔力はどれほどのものなのでしょうか。」
「封印の強さから鑑みておそらく今の魔力の3倍はあると思う。」
「3倍!?」
ポールは愕然とした。
「では今のティアは本来の魔力の3分の一ということですか。」
「あぁ。でもこれはあくまで私の見立てだ。もっとあるかもしれないし、ないかもしれない。実際封印を解いてみなければ分からない。」
「なんと恐ろしい。鳥肌が立ちましたぞ。しかしそうと分かれば今すぐにでもティアを保護しないとなりませんな。早速ティアの元へ行ってきます。」
ポールはこうしてはいられないと昇降口に向かおうとした。しかしローレイはそれを止めた。
「待てポール。」
「なぜ止めるのです!ティアが器の候補なのなら魔王に見つかる前に厳重に隔離しないと!」
ポールは焦っているようだ。
「これはあくまで私の推測に過ぎない。何らかの能力は封印されているのは間違いないがもし万が一治癒系でなかったら?私たちは無意味な理由でティアを幽閉するのか?」
「しかし・・・!」
ポールは納得がいかないようだ。そもそもローレイがティアを魔王の器候補だと言い出したのに。
「案ずるな。ちゃんとティアを監視している者がいる。私が監視するように命じたのだ。もしティアの周りで少しでも不審な動きがあったらすぐに報告を入れる手はずになっている。私もすぐにティアの元に駆けつける準備は出来ている。」
「そうだったのですか。監視している人物は誰ですか?」
「ホゼだ。」
「ホゼ!?あの年寄りに監視をさせているのですか?」
「年寄りとか言うな。ホゼほど警戒されずに監視出来る人物はいない。」
「これは失礼しました。しかしつい最近タイラ国へ治療に出かけるとホゼから報告を受けました。ティアの元を離れて大丈夫なのですか。代わりに誰かを監視役にするのですか。」
「それは私も報告を受け、許可した。ホゼがタイラに赴任している期間は半年。半年ならなんとかなる。タイラ国から帰ってきたら引き続き監視してもらうことにはなっている。私もお前も長時間ここを離れるわけにはいかないしな。ティアを監視させるとなるとその理由を話さなければならない。ティアが魔王の器候補であることをなるべく知られたくないのだ。このことを知っているのは私とお前とホゼだけだ。監視役は相当信頼出来る者でないとならないからな、ホゼ以外にそう簡単には見つからないのだ。」
「そうですね。」
ポールは納得した。それと同時にローレイはなんと凄い方なんだと改めて思い知った。ティアに封印が施されていることに唯一気づき、その上密かにホゼに監視をさせていたなんて。
しかしここで一つの疑問が浮かび上がった。
「それにしてもティアの母親はどうやって自分の娘が魔王の器候補になることを知ったのでしょうか。器の条件である魔力の強さと治癒系のことをどこで知ったのか。」
「それは私にも分からない。人間にあるまじき凄まじい魔力を持つことは魔王関係なしにティアの為にならないと思ったのかもしれない。母親としての直感か娘を想う気持ちか。」
「あるいは何らかの形で魔王の器のことを知った可能性もありますね。」
「あぁ封印系ならありえるかもしれん。どこかに封印されていた古文書や石碑を解除して読んでしまった可能性も無きにしも非ずだ。」
「ティアの母親に聞いてみたいですが母親はもう亡くなっているから聞くことは出来ませんな。」
「そうだな・・・。」
ティアの母親が娘の将来を憂い懸命に封印した。それを想像すると切なくなるローレイとポールであった。


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