アルクはティアの柔らかくて温かな唇を貪っている。 「ん・・・んっ・・・・」 ティアは必死で抵抗した。 「!!」 ティアは密着しているアルクの下半身が熱を持っているのが分かった。アルクが自分に欲情しているのが切ないほど伝わってくる。 間髪置かずティアは自分自身の体の異変に気付いた。腰の辺りがじんじんと熱くなっていく。 「なっ・・・。」 ティアは心の中で驚いた。 ティアは自分自身に絶望した。アルクに強引にキスをされ欲情しアルクの体を求めていることに絶望している。こんな自分が許せなかった。 今までなんの為に生きてきたというのか。 個人の幸せを顧みず、誰かを愛することを禁じ誰かから愛されることを避け生きてきた。それもこれも魔物たちから人々を守るため。両性体でなければ魔力を失ってしまうのに! でもやっぱり自分はアルクを愛している。アルクのことを求めている。愛には抵抗出来ない。感情に流される不甲斐なさとアルクを求めてやまない不埒さに心がぐちゃぐちゃにかき乱れていく。 ティアは耐えきれなくなってありったけの力を込めてアルクのことを突き飛ばした。突き放されたアルクは酷く傷ついていた表情で立ちすくんでいる。 「アルク・・・。」 雨に濡れた子犬のようなアルクの悲し気な瞳にティアの心が痛んだ。 しかしアルクはティアに背を向けると無言のまま自分の部屋に閉じ乞ってしまった。 ティアはどうしていいか分からない。このままアルクを放っておけばアルクは自分に呆れ果てその胸の想いを捨て去るだろう。それが二人にとって一番いいのかもしれない。 アルクはソダムに行き自分はこれまで通り魔物退治をして生きていく。例え離れ離れになってもそれぞれの人生を歩んでいくのがお互いの為なのかもしれない。ティアはそう思った。 それでもティアはアルクの顔が見たかった。声が聞きたかった。いつものような笑顔を見せて欲しかった。ティアはアルクの部屋の前に立ち、中にいるアルクに声を掛けた。 「アルク、さっきはごめんなさい。話があるの。お願いドアを開けて。」 しかしアルクは閉じこもったままだ。もちろんティアの声は聞こえている。 「アルク・・・。」 今すぐアルクの胸の中に飛び込んで愛されたいという想いとこれは愛ではないとアルクに否定して欲しい思い。この二つの相反する気持ちの間で揺れ動き心が押しつぶされそうになっている。 アルクと愛し合い身も心も一つになってこれからの人生を歩んで生きたい。それが叶うなら魔力を失ってもいい、なんの力も持たない普通の人間になってもいい、アルクを愛したい、アルクに愛されたい。 それとは反対にこの切なくて苦しい胸の痛みは愛ではなく一過性の風邪みたいなものだと思いたい。なぜなら私には多くの人々を守るという使命があるから。その使命を生涯全うしたい。 今のティアにはこの二つの願いのどちらも捨てられない。だからこそこんなに苦しい。だからこそこんなに辛い。 そう、ティアには分かっていた。自分はアルクに恋をしていると。初めて会った時からきっと愛していたのだろうと。だからこそアルクにこれは恋ではないと否定して欲しかった。こんなにも苦しく切ない想いから逃れたかった。胸が苦しくなって体温が上がり呼吸が乱れる。瞳からは涙があふれてきた。 「アルク・・・お願い。この気持ちは恋ではないと否定して。あなたが否定してくれれば私は諦められる。これからも今までのように魔物たちと対峙していける。お願い・・・。」 だがアルクは部屋から出てくることはなかった。
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