私は15年もアルクと共に歩いてきて一体アルクの何を知っているのだろう。なぜアルクの本音を聞こうとしてこなかったのだろう。ティアは自分のこともアルクのことも分からなくなった。
「ただいま。」 アルクが帰って来た。それを知ったティアの心臓の鼓動が限界近くまで速度を上げる。何も知らないアルクは呑気な声でリビングの扉を開けた。 「今、家の外に不審な男がいてさ。気味悪いから追い払ってやったよ。ってあれいない。ティアどこだ?」 ティアがいないと分かると客間に向かった。ドアを開けた途端視界に入ったものを見て驚愕している。 「なんでナタリーがここにいるんだ!」 「あらお帰りなさい、アルク。ティアにちょっと話があったからここに来たのよ。」 ナタリーはアルクの憤りなどどこ吹く風で返した。 「ティア、こいつに何を言われても気にするな。聞くことない。」 「・・・うん・・。」 アルクはティアの肩を掴んで説得するがティアの返事は元気がなかった。 「さてと、話は済んだから私はおいとまするわ。ティア、さっきの件、くれぐれもよろしくね。」 ナタリーは何事もなかったかのように立ち上がり玄関へと向かった。 「二度と来るな!」 アルクはナタリーの背中に言い放ったがナタリーは手をひらひらさせながら「じゃあね。」と家から立ち去った。アルクはティアに向き直り 「ナタリーと何を話した?」 「・・・・。」 ティアは話しづらそうにしていたが何回も「何を話した?」と問い詰められてようやく重い口を開いた。 「アルクがソダム騎士団に誘われていること。」 「やっぱり!」 アルクは糞っ!と呟きながら舌打ちをした。 「あいつがどんなことを言ったかは知らないが俺はソダムには行かないし行きたいとも思わないから。」 アルクは強い口調ではっきりと言い切った。ティアはそれを聞いて安堵した。 良かった、アルクは私の傍にいてくれる・・・。そう思えただけで涙が出るほど嬉しかった。でもナタリーの言葉が心に深く突き刺さっている。それがティアを責め悩んだ。 アルクをこのままこの生活に縛り付けていていいのだろうか。もっとふさわしい生き方があるのではないだろうか。アルクには無限の可能性がある。にもかかわらず自分と誓った「ずっと傍にいる」という子供の頃の約束を守るために無理してここにいるのではないだろうか。 疑心暗鬼になったティアの心は元には戻らない。だからどうしても聞いてみたくなった。 「アルク・・・。」 「なんだ?」 「ソダムに行きたければ行ってもいいのよ。」 「!!!」 ティアにそう切り出されたアルクの顔色が変わった。 「なんだよそれ!!」 アルクは怒りを露わにしている。ティアは自分に対してこんな風に怒りをぶつけるアルクを見るのは初めてだった。ティアの心は震えあがった。 「お前は俺がいなくても平気だというのか!俺がソダムに行けば俺たちは離れ離れになるんだぞ?!」 「それは分かっているわ。」 「いや分かっていない!ティアは何も分かっていない!」 アルクはそう吐き捨てた後、言葉を詰まらせた。 「俺は・・・!俺ばっかり・・・!」 俺だけがティアを愛していて俺ばかりティアを必要としている。ティアは俺のことなんて必要としていないのに!これじゃあ俺はまるっきり哀れなピエロだ・・・!アルクの心が病んでいく。 ティアに「行かないで」と言って欲しかった。「ずっと一緒にいて」という言葉が欲しかった。それなのに現実はどうだ。どうしてこうもティアは俺の思い通りにならない! やるせなさとティアへの苛立ちがアルクの理性を焼き切った。不安そうにアルクを見つめるティアの元に言葉もなく寄るといきなりティアの髪に手を差し入れ頭を押さえつけて強引にキスをした。 「!?」 あまりに突然のことにティアは驚きのあまり目を見開く。アルクと口づけを交わすのは初めてのことだ。しかもこれは交わすなんてかわいいものではなく無理やり奪われている。 ティアは抵抗を試みた。アルクの体を突き放そうとするがアルクの体はびくともしない。それどころかティアの腰に手を回してきてぎゅっと抱き寄せた。髪の毛一本入る隙間もないくらい密着する体。
|
|