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作品名:魔王の器候補は両性体 作者:雲のみなと

第3回   3
トーマスは先生に告げ口されたら困るとばかりに体を縮こませている。その時。
「両性体かよ。気持ち悪い・・・。」
皆の耳に誰かがぼそりと呟いた言葉が入った。もちろんティアの耳にも。
それだけではなく、心無い言葉を聞いた他の誰かがくすっと笑った。ティアは辛くなってきゅっと唇を噛みしめる。そんなティアの様子に心を痛めた生徒の一人が声を上げた。
「今気持ち悪いと言った奴誰だ!出てこいよ!笑った奴も!ティアはなにも好き好んで両性体に生まれついたわけではない。たまたま運が悪くて両性体になってしまっただけだ。」
フォローを入れたのはこのクラスのリーダー的存在のジョルジュだ。これがティアのフォローになっているかどうかは分からないがジョルジュは正義感が強いらしい。
生徒たちは居心地悪そうに静まり返る。トーマスはこんな空気にした責任を感じて必死に言い訳を始めた。
「ティア、本当にごめん。でもこれだけは信じて。透視したといっても体そのものがはっきり見えるわけではないんだ。なんというかシルエットが浮かび上がるというだけで。」
しかしこの言い訳に怒るのは女子たちで。
「シルエットだから許されるとでも思ってんの!?女の体を盗み見たら痴漢よ!犯罪よ!」
「でもティアは半分男だから・・・。」
「半分だろうが全部だろうが痴漢は痴漢なのよ!!」
トーマスの下手な言い訳が火に油を注ぐことになる。そこで他の男子がトーマスの援護に回った。
「さっきから黙って聞いていればぎゃあぎゃあうるさい女どもだ。両性体なんだから別に見たっていいだろう。半分は男同士なんだし。」
「そういう問題じゃない!」
女たちがそれに応戦する形になり教室は騒然となる。
「なぁトーマス。両性体ってどんな感じ?俺見たことない。」
全く空気を読まない生徒が突然トーマスに尋ねた。
「それは・・・。」
トーマスは言い淀んでティアの顔をちらっと見た。ティアの顔は恥ずかしさでどんどん赤くなってく。クラス中の視線が一斉にティアに注目する。とにかくこの場を納めなければと思ったティアは女生徒に向かい
「かばってくれてありがとう。でも私は両性体ということを隠すつもりはないし気にしていないよ。トーマスも気にしないで。」
にっこり微笑んでそう言った。
しかし気にしていないというのは嘘だ。指先が小さく震えている。笑顔もどこかぎこちない。それでも必死に取り繕っている。それを見た皆が気まずい思いに駆られた。
そんな中、14歳のジョルジュは小さくため息をついた。まだまだこの教室は未熟だな・・・と暗澹たる気持ちになった。

両性体はこの世界に二万人に一人の割合で生まれてくる。
普通は母親の胎内にいる段階で男性か女性のどちらかに分化していく。しかしごくまれに染色体の異常により分化せずに男性女性どちらの身体的特徴をも持って生まれてくる者がいてこれが両性体となる。

まだ子供たちは両性体への理解が全く進んでいない。自分たちとは違うもの、異質なものを排除したがる。
しかもここにいる生徒は皆自分は魔術が使えるという自負を持っていてプライドが高い。中には自分は神に選ばれた者という驕りがあったりする者いる。だから魔力を持たない人間たちをどこか見下しているようなところもあるし、ましてや両性体という不完全な者に対してはそれは顕著だ。

むろんこういう考えは学校の中で倫理や道徳を学ぶにつれ矯正されていくし、大人になるにつれ自分とは違う者に対しての理解を深めていくから偏見や差別は少なくなっていくのだが。
いかんせんここにいる子供たちはまだ精神的には未熟である。14、15歳の同級生はさすがにもう両性体に対して露骨な差別はしなくなっているのでこのやりとりを黙って見ているだけだが。

その時、チャイムがなった。授業の始まりだ。直に教師もくるだろう。生徒たちは自分たちの席へと散っていく。トーマスがティアの横をすり抜けざまにもう一度謝ってきた。
「本当にごめん。先生には言わないで。」
「うん。気にしないで。」
トーマスはティアの体を透視しして皆に言いふらしたことよりも先生に告げ口されないかを気にかけているようだ。そのことにティアは内心苦笑いしながらも先生には言わないでおこうと思った。
ティアが席を着いた。隣のロマンも席に着く。ティアはロマンと目があった時に何となく微笑みかけた。
しかしロマンはその笑顔には答えず真顔で黒板を見ているだけだ。ティアが両性体と知った途端にこの変わりよう。ついさっきまでティアに笑顔を向けられて頬を赤く染めていた男の子と同一人物だとは到底思えない。
でもティアはこういうことには慣れっこだった。この世界はそういうものだと諦めている。それよりも何よりも自分が両性体ということを恥じていないから平気。だって両性体だからみんなを守れるのだから。ティアはそう思っていた。


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