「だって俺には関係ないことだし。」 ラッセルはさらりと言ってのけた。 「!?」 「なんですって!」 「一介の騎士ならともかくお前は相当腕が立つらしいな。それに今まで何度もドムナと闘ったことがあるし、何度も倒したことがあるとあれほど自慢していたじゃないか。それなのになぜ見て見ないふりをした?」 皆が驚きと憤慨、侮蔑の眼差しでラッセルを非難する。アルクは呆れてものも言えないという感じだ。ティアはなんとも言えない表情でラッセルの顔を見つめている。ラッセルはお構いなしに続ける。 「俺はこの町で生まれ育ったわけではない。世界中を旅しているその日暮らしの雇われ騎士だ。この町に愛着なんかないし、この町の水資源が汚染されて使い物にならなくなろうが俺には関係ないことだ。ここに住めなくなったら俺はよそに行けばいいだけだからな。」 平然と言ってのけるラッセル。 「なっ・・・!!」 皆が愕然とした。ラッセルに恋心を抱いていた女性たちも一瞬にして失望した。異様な空気が辺りを包む。 するとティアが何を思ったかラッセルの目の前に歩み出た。次の瞬間。 パシーン。 乾いた音が辺りに鳴り響いた。ティアがラッセルの頬を叩いたのだ。ラッセルは驚いてティアを見つめている。アルクも町民たちも唖然としてティアを見ている。 「今までドムナと闘ったことがあるし、倒したこともあるというのは本当なの?」 「まぁな。ドムナの倒し方はよく分かっているつもりだ。奴の魔毒と尻尾にさえ気を付ければいい。」 「では、あなたのその腰にある魔剣はなんの為にあるの?その剣は魔物から人々を救う為にあるはず。しかもあなたは魔物を退けるだけの力は十分にある。違う?」 ティアの言葉にラッセルはただ黙って耳を傾ける。 「あなたはこの町に来て半年になるわ。半年もいればあなたはこの町の住民なのよ。いかにあなたが今まで根無し草のような暮らしをしてきたとしてもそんなのは関係ない。ここに住んでいるからには他の住人たちが困っていたら助けるのがあなたの役目よ。」 「・・・・。」 「あなたのその剣も騎士としての才能もあなたが暮らしているこの町の人々の為に使うべだわ。騎士なら騎士としての矜持があるでしょう?その魔剣はおもちゃではないわ。魔術師たちが必死に魔力を込めたもの。それを無駄にしないで。人々を見捨てないで。」 ティアの凛とした声と言葉が町民たちの心に染みわたっていく。 「ティア・・・。」 アルクも胸を震わせている。ラッセルはしばらくは押し黙っていたがやがて 「はいはい分かりました。綺麗ごとが好きなお姫様だこと。まぁ次からは気が向いたら対処するよ。」 「ラッセル!貴様!それでも騎士のはしくれか!!」 アルクは全く反省しないラッセルに腹を立て非難したがラッセルはどこ吹く風だ。町民たちは腹立たしいという気持ちよりも落胆が上回った。ティアの言葉はどうやらこの男には届かなかったようだ。 「しかし今日は厄日だねぇ。アルクには殴られる、ティアには叩かれるわで散々だ。酒場で飲みなおしてくるとするか。」 ラッセルは飄々と言ってのけ、バイバイと後ろ手に手を振りながらその場から立ち去った。 しかし立ち去る時のラッセルの表情はなぜか嬉しそうだった。どことなく安堵しているようにも見える。まるでずっと欲しがっていたものを手に入れた子供のような・・・。 だが町民たちはラッセルのそんな顔など見ていないから口々にラッセルの背中に非難の言葉を浴びせた。 「その魔剣は宝の持ち腐れだろう。他のまっとうな騎士に渡せよ!」 「女のケツばかり追いかけている男のどこが騎士だよ。」 「私あなたに失望したわ!」 言いたい放題だが仕方がない。それだけ普通の庶民は騎士たちに期待しているのだ。 そんな中、ティアとアルクだけがラッセルの瞳の奥がかすかに濡れていたのに気づいていた。 「ラッセル・・・?」 ティアとアルクはラッセルのもう一つの顔を見たような気がした。
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