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作品名:魔王の器候補は両性体 作者:雲のみなと

第22回   22
太陽が輝き、今朝もよく晴れている。透き通るような青空が晩秋の寒さを忘れさせてくれそうだ。ティアとアルクは町の商店街をのんびりと歩いていた。これから本格的な冬を迎えるにあたって温かい毛布を買いに来たのだ。
「家に帰ったら薪割もしないとな。これから暖炉が大活躍だ。」
「暖炉のすす払いは私にまかせて。」
「あぁ頼んだ。」
これからやってくる冬を乗り切る為にあれやこれや計画を立てながら歩いていた時だ。一人の若い女性がティアたちの姿を見るやいなや駆け寄って来た。
「聞いてティア!ラッセルったらまた約束を破ったのよ。私とデートする約束をしときながらすっぽかして他の女と遊んでいたの。ティアからなんか言ってやって。」
ティアに頼み事をしてきたのはリンカだ。この町の衣服屋の一人娘でティアと仲良くしている。そしてラッセルというのはこの町に半年前に流れ着いた雇われ騎士である。
「またラッセル・・・。」
ティアはその名を聞いていささかうんざりした。
一方アルクはラッセルの名を耳にした途端機嫌が悪くなった。

噂をすれば影である。通りの向こうから体格の良い男がやってきてティアの姿を見とめた途端、ご機嫌な様子で近寄って来た。
「やぁ、ティア。相変わらず美しいな。こんな上玉、なかなかいないぜ。」
ラッセルは軽薄そうに言うとティアの頭の上から爪先まで舐めるように視線を絡めた。不躾な視線にティアが眉を顰める。アルクはというと今にも飛び掛からんばかりの臨戦態勢だ。
「おっぱいは小さいがそこは致し方ないな。両性体とは思えないくらいに見た目は女なのに男の一物がついているなんて到底信じられないが。まぁ俺はティアが男でも女でも構わないさ。俺と付き合わない?」
なんという軽薄さ、なんという不躾な男。
しかしティアはこの男の物言いには慣れている。というのもラッセルは事あるごとにティアを口説いているのだ。ラッセルは生粋の女ったらしで町中の綺麗な女をデートに誘っては二股をして女を怒らせるいう不届き者である。

ラッセルは半年前に偶然この町に辿り着いて偶然ティアを見かけた。それからティアを口説き続けているのだがティアからは全く相手にされない。
それでもめげずに口説き、ついでに他の女たちも口説いているというつわものだ。だからアルクはラッセルのことが気に食わない。ティアを口説いているのを見るたびに腹が立って腹が立ってしかたがないのだ。
しかもティアが両性体であることをいちいち持ち出すのが我慢ならない。アルクはキレた。
「おい!貴様!ティアに対してなんたる無礼を働くんだ!」
ラッセルの胸倉を掴み詰め寄った。
「アルク!」
ティアは一触即発のアルクをなだめようと制止するがラッセルは涼しい顔をしてどこ吹く風だ。だがラッセルの下品な言葉に怒りを感じたのはアルクだけではなかった。
「ちょっと!ティアに謝りなさいよ!失礼でしょ!」
「そうよ女ったらし!ティアを侮辱したら許せないわよ!」
「この前の私と映画を見にいく約束していたのにすっぽかしたでしょう!カリヤと会っていたの知っているんだから!」
リンカが口火を切るといつの間にか集まってきていた女性たちが一斉にラッセルを非難し始める。
中にはティアと関係ないことを言いだす女もいたが集団で責められたらラッセルも適わない。アルクも女性たちの迫力に押されて引いてしまった。そっと胸倉を離した。
「OKOK分かった。君たちはティアのことが大好きなんだね。もう侮辱はしないよ、口説きはするけど。」
まったくラッセルは懲りていない。ティアはやれやれとため息をついた。そして
「ラッセル、いい加減女を泣かせるのはやめなさい。そんなことばかりしていても満たされることはないでしょう。」
ティアに満たされることはないはずと言われたラッセルは一瞬戸惑い、びくっと肩を震わせた。しかしすぐにいつものラッセルに戻る。
「・・・・そうでもないさ。俺は満たされまくっているし後悔もしないぜ?これが俺の生き方だからさ。もっともティアが俺と付き合ってくれるというならティア一筋になってやってもいいけど?」
「貴様!」
アルクが再びラッセルに掴みかかった。ティアは慌ててアルクを止める。アルクはそれに従った。
するとラッセルはアルクを一瞥し
「おぉ、このナイト様はお姫様の言うことには従順だな。そんなに大切ならそのお姫様を女にしてやったら?」
アルクの頭の中でブチッと何かが切れる音がした。
次の瞬間、アルクはラッセルを殴った。ラッセルは頬を殴られ地面に叩きつけられた。ラッセルの体の周りで土埃が舞う。
「「きゃあ!!」」
「アルク!!」
女性たちの悲鳴とアルクの行動を咎めるティアの声が上がった。
ラッセルは口の中が切れたらしく唇の端から少しだけ血を滴ったらせた。ゆらりと立ち上がると血を手で拭う。アルクはもはやティアの制止など聞こうとせず応戦する気満々だ。ラッセルはニヤリと笑った。ラッセルも騎士だ。殴られっぱなしでは騎士の名が廃る。
「そうこなっくっちゃナイト様!」
ラッセルの目の色が変わった刹那、アルクに殴りかかった。
「きゃあ!!」
再び女性たちの悲鳴が上がる。

しかしラッセルの拳はアルクの顔には届かなかった。ラッセルもアルクも驚愕して目を皿のように丸くしている。なぜならラッセルとアルクの間にとっさにティアが割り込んだのだ。
驚いたラッセルはティアに拳が当たる寸前のところで無理やり拳を止めた。ラッセルだからとっさに止めることが出来たが、もしこれが他の男だったらティアを殴ってしまっていただろう。
これに怒ったのはアルクだ。血相を変えてティアを叱り始める。
「なんてことをするんだ!!もし殴られていたらどうするんだ!!怪我どころじゃ済まなかったぞ!相手は百戦錬磨の騎士なのに!!」
「でもラッセルは殴らなかったよ。」
「そんなの結果論だ!」
アルクの剣幕に町中の人はおろおろしている。これほどまでにティアに対して怒りを露わにしているアルクを見るのは初めてだった。それはティアも同じだった。それだけティアのことを心配し大切に思っているという証なのだろう。ラッセルはひそかに諦めのため息をつく。
「ごめんなさい、アルク。でもいざとなったら結界を張るつもりだったから大丈夫よ。それに私、アルクがこんな男に殴られるところは見たくなかったの。」
こうなるとティアに弱いアルクのことだ。ティアの健気な告白にアルクは嘘のように怒りを鎮めた。またしてもラッセルはやれやれと肩をすぼめる。
「こんな男か、言ってくれるねぇ・・・。」
騒動は一件落着かと思った。しかしそうはいかなかった。

突如一人の男性が一歩前に歩み出てきたかと思うとラッセルの前に立ちはだかった。
「どうしたゲン、そんな怖い顔して。それでなくても怖い顔が益々怖いぞ。」
ラッセルの前に立ったゲンを見て他の町民は何事かと声を掛けた。しかしゲンは怒りを露わにした表情を崩さず
「お前騎士だろう?しかも魔物退治もしているそうじゃないか。なのになぜあの時、お前は何もしないでドムナを見ていた。」
「・・・。」
ラッセルは急に押し黙ってしまった。
「え?」
「なんだと?」
その場にいる皆がざわつき始めた。ティアもアルクも眉を顰める。
「どういうことだ、ゲン。説明してくれ。」
「俺は見たんだよ。数か月前にドムナがタクト湖を汚染した事件があっただろう?」
「あぁそんなこともあったな。あの時はティアとアルクとホゼ様のおかげで事なきを得たが。」
「ティアとアルクが到着する前、あの現場にラッセルはいたんだよ。ドムナが湖を汚染していくのを何もせずに黙って見ていた。そしてあろうことか何事もなかったかのようにその場から立ち去ったんだ。」
「なんだって!?」
「嘘でしょう!?」
「それは本当なのかラッセル。」
町民たちは厳しい追及を始めた。ラッセルは観念したのかようやく口を開く。


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