その頃、廊下から教室の様子を見守る二人の男がいた。 一人は背が高くガタイもよい屈強な男、名のある魔術師である。実はこの男こそが16年前にこの魔法学校を設立した者で名前は『ローレイ・ワトソン』という。 もう一人の男はローレイより幾分背が低く、体も痩せている。この男『ポール・ゴゴレ』も魔術師である。ローレイの補佐的立場にありローレイが校長ならポールは教頭といったところか。ローレイとポールはティアの様子をそっと見守っていた。 「ローレイ様、あの銀髪の子が今日入学してきた者ですね」 「そうだ、名前はティア・アムス。10歳だ。」 「見たところ結界系ですな。10歳ですでにあの強い魔力なら将来が楽しみですな、育てがいがあるというもの。」 「あぁ。」 「それであの子の素性はどのような?遺伝?それとも突然変異的なものですか?」 「遺伝だ。先ほど母親からティアを預かったが母親は相当優秀な結界系だ。ティアはそれを引き継いだようだ。父親は普通の人間であるがティアが1歳の時に病死したらしい。」 「では今日まで女手一つであの子を育ててきたというわけですな。」 「そのようだ。」 「まぁいずれにせよティアが結界系なら魔王の器の候補からは外れますな。良かった。」 ポールは安堵の声色でローレイに同意を求めた。しかしローレイはそれには同意せず黙ったままだ。それどころか心なしか警戒しているようにも見える。 「どうしましたローレイ様。何か気がかりなことでも?」 「あ、いや、なんでもない。」 ローレイは慌てて取り繕った。 「そろそろ7年生の攻撃系の授業が始まる。私はそちらへ行くからポールは8年生の操作系の授業に行ってくれ。」 「かしこまりました。」 ローレイは攻撃系が集まる教室へ、ポールは操作系が集まる教室へと向かった。それぞれの教室で魔術の授業を行う。
先ほどから攻撃系だの結界系だの治癒系だの言っているがこれには理由がある。 実は生まれ持った魔力にはそれぞれ特色と資質がある。資質言うなれば才能である。才能を発揮出来る分野、発揮出来ない分野があって、魔力で火炎を作り出して放出したり、かまいたちのような鋭い風に変えたり水を変幻自在に操ることが出来る者を攻撃系と呼ぶ。 攻撃系は魔物退治の時は戦闘の最前線に立って闘うことがほとんどだ。その為、一番派手な魔力を持っているといってもいいだろう。
結界系とは名の通り己の魔力で結界を作ったり張ったりする者である。攻撃系の体の周りに結界を張って魔物からの襲撃を防いだり、戦闘が激しさを増した時に周囲に被害が及ばないように結界を張ったり、魔物を退治したらそれを封印したりもする。相手の魔力を封印することも出来るので攻撃系のサポート的なことをすることも多い。そしてティアがこの結界系だ。
治癒系は傷ついた体や怪我を治癒することが出来る魔力を持つ者のことをいう。生き物の怪我に対して力が働くだけではなく魔物によって汚染された人や場所、物を浄化することも出来る。
そしてもう一つ、透視捜査系というものがある。これは相手の正体を透視したり人物や物の在処を探し当てる能力。魔物の居場所を探し当てたり予言を得意とする。
さらに操作系もある。この能力は主に遠隔操作時に発揮出来る。触らずにして物を動かしたり、世界中に散らばっている魔術者と魔力を使って会話出来たりするのだ。魔物を退治する時に使う剣に魔力を込めたり魔道具を作るのも操作系が行うことがほとんどだ。
この5つの系統からなる魔力。実は一人の人間につき一つの系統しか与えられていない。なので攻撃系は結界や治癒は出来ないし結界系も攻撃や治癒が出来ない。 治癒系は治癒しか出来ないし透視系操作系もそう。だから持って生まれた自分の系統を知りそれを磨きあげ極めることでより精鋭化する。その為にこの魔法学校があるのだ。 ちなみにローレイは攻撃系、ポールは操作系である。 自分が持っている能力しか手本として生徒に見せることは出来ないが、魔力を持つ先輩として基本的な魔力の使い方、闘い方、、魔剣や魔道具の使い方、倫理、道徳、危険性を説くことは出来るのでそのような授業で教壇に立つこともある。 もちろん実践の授業となれば自分の得意分野での授業を務めることになるが。よってこの魔法学校はすべての系統の魔術師を揃えている。
また、生徒たちは入学する時に自分がどの系統に当たるかテストを受ける。どの系統にあたるかだけでなく魔力の強さ弱さも判断される。 この学校は一学年に一つの教室しかない。おまけに一学年で20人ほどしかいない。入学してから6年間は様々な系統の生徒が一つ教室で授業を受けることになる。7年生からはそれぞれの系統の教室に分かれ本格的に学ぶのだ。逆に言えば6年生までは同級生に様々な系統がいることになる。 なので魔力対決をする時に強い魔力を持つ者同士で組ませないと弱い方が大怪我をすることになるのでこのテストは慎重に慎重を重ねて3日間に置いて行われる。
休み時間になった。 「ねぇねぇティア、君はどこから来たの?」 「系統はなに?」 「遺伝?それとも突発?」 教室の中はティアを囲んで賑やかだ。皆興味津々である。特に男どもは色めきだっている。 これは無理もない。なにせティアの美貌は目を見張るものがある。 しかしそれを見て面白くないのは女子たちだ。なにせティアが男子の視線を独り占めしているのだから。 それでなくても魔法が使えることで自分は特別な人間だ、凡人とは違うのだという選民意識に凝り固まっている子も中にはいる。そういう子は倫理や道徳の授業を受けていくうちにその意識は薄れていくものだがこの教室にいる生徒は学校に入ってからまだ一年未満の者ばかり。まだその境地には至っていない。 それに入学してくる年齢は様々だから意識の差にもばらつきがあり騒がしい同級生を冷めた目で見る子もいる。 「なによ、いくら綺麗な子だといったってまだ10歳じゃないの。」 「そうよ、10歳の子をちやほやして馬鹿じゃないの?あ、やっぱりロリコン?」 「今は可愛くても後5年もすればデブスになっていたりして。」 女の子たちはティアに聞こえるようにわざと大きな声で嫌味を言った。ティアは辛そうに俯いてしまった。それを見た男の子たちが腹を立て女の子たちに反論を始めた。 特にロマンは顔を赤くして憤慨している。 「そういうお前らは性格ブスだろう!!」 「なんですって!?」 「だってそうだろう!馬鹿じゃねーの!嫉妬すんな、ブス!年増!」 「年増ってまだ私は13歳よ!言わせておけば!」 「うるせー!やるか!」 魔法が使えるとはいえやはり子供である。ファイティングポーズをとって女の子たちを煽る男子。女の子たちも負けてはいない。中指を立てて挑発している。 今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。教室内で魔術を使うことは禁じられているので肉弾戦になるのか。ティアはこのままではまずいと思って喧嘩を止めようと立ち上がった、その時だ。 先ほどからじぃっとティアを見つめていたトーマスが突然言い放った。 「あのさ、ティアの正体分かっちゃった。」 「はい?」 「正体って?」 この瞬間、ティアの体がびくっと大きく震えた。顔が強張っている。ティアの異変に気付いたロマンが不安げにティアを気遣った。 「どうしたのティア?」 しかしティアは何も答えない。 トーマスは言った。 「ティアは両性体だよ。」 「え?」 教室が一斉にざわめく。ティアは突然みんなの前で身体的なことを暴露されて涙ぐんだ。 「どこからどう見ても女にしか見えないけれど男の象徴がついているということだよ。俺透視したから見えちゃった。」 トーマスが悪びれもなく透視したと告白した途端に風向きが変わった。 「トーマス最低!!体を透視するなんて最低だよ!!」 「そうよ!両性体だからといって半分は女の子なんだから透視なんて犯罪よ!!先生に言いつけてやる!!」 先ほどまでティアに嫌味を言っていた女の子たちが打って変わってティアの擁護を始めた。それはそうだろう。無断で体を透視するなんてあってはならない最低な行為だ。トーマスは先生に言いつけるという言葉で顔を真っ青にした。
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