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作品名:魔王の器候補は両性体 作者:雲のみなと

第19回   19
夏真っ盛りだ。樹々の葉は青々と茂り、虫や動物たちがこの夏を生きいきと生きる。ティアとアルクは午後の畑の雑草取りをしていた。雑草も例にもれず元気旺盛だ。二人は時間も忘れ懸命に仕事に励んだ。
ようやく雑草が姿を消し二人はやっと草刈りから解放された。
「ティア、そろそろ今日の所は終わりするか。」
「そうね、畑も綺麗になったことだし終わりにしましょう。」
二人は揃って額から流れる汗を拭った。
「しばらくすればまた生えてくるんだろうな。」
「そしたらまた草刈りにしなければね。農家の人には感謝しかないわ。毎日広い畑でこんなことをやっているんだもの。」
「そうだな。」
二人は服についた土埃を軽く払いながらとりあえず自宅に戻った。

ティアがさっそく郵便受けを覗く。そこには一通の手紙が入っていた。手紙は電報扱いになっていて通常の5倍も早く相手の手元に届くやつだ。この急ぎようから考えると魔物退治の依頼に違いない。
手紙の差出人は『グリーンリッチ国のリキン村一同』と書かれている。ティアの表情はさきほどの穏やかなものから一転して厳しいものになった。早速封を開ける。手紙を読み終えたティアは
「アルク、依頼が来たわ。」
真剣な声でアルクに伝えた。アルクはすぐさまティアの所にやってきた。
「場所は?」
「グリーンリッチ国のリキン村というところよ。これが依頼の手紙。」
アルクは手紙を受け取ると真剣なまなざしで読み始めた。
「退治する魔物の名前は書いてないし、差し出し人からして斡旋所からではないな。」
「そうね、個人からの依頼のようだわ。」
手紙にはこう書いてあった。
『ティア・アムス殿、アルク・サンドラ殿、どうか私どもを助けてください。魔物が暴れています。このままでは村は全滅です。どうか一刻も早く魔物を退治してください。お願いします!助けて!!』
手紙の文面から村人の悲痛な思いが伝わってくる。ティアたちはこうしてはいられないと阿吽の呼吸ですぐに出かける準備に入った。

魔物退治の依頼方法には二通りある。
一つは世界に数か所ある魔術師斡旋所に依頼をすることだ。魔物を退治、あるいは封印して欲しい時は斡旋所に連絡を入れるのだ。ちなみにヘロン魔法学校と斡旋所は深い関係にある。
というのも学校を卒業すると自分の名前と住所と魔力の系統が斡旋所に登録されるのだ。斡旋所はその登録名簿を見て依頼された場所に近いところにいる術師や事件を起こしている魔物に対応するのに適した能力者を送り込む手はずになっている。
しかしこの登録は強制的ではない。ヘロン魔法学校を卒業したからといって全員が魔物退治に駆り出されるわけではないのだ。まさしくそれを望む者だけが登録される。
中には魔物退治を拒否する者もいてそれは自由だ。魔法学校の入学は半強制的でも斡旋所の登録は強制的ではない。無理やり登録したら人権問題に関わるからだ。

そしてもう一つの依頼方法とは斡旋所を通さず個人で依頼するケース。
これは依頼者が魔術師の居場所を知っていなければ出来ないことだが、以前依頼した者から聞き出せば済む。ティアたちの元へ届く依頼の内、6割が斡旋所からで後の4割が個人からである。

準備を整えたアルクの腰には魔剣がある。鞄の中には薄いタイプの甲冑も入っている。ティアも闘いやすい服に着替え終えた。
「斡旋所からの依頼であれば魔物の種類が大まかにでも書いてあって策を練れるが今回はそれが出来ないな。」
「行ってみないと分からないということね。とにかく行きましょう!」
二人は覚悟を決めた強い眼差しを交わし合い深く頷いた。家の裏手に回り、愛馬のいる馬小屋に向かった。
「シルク、サンダーしばらく家を留守にするわ。二人の世話はいつものようにボム一家に頼んでいくからボムの言うことをよく聞くのよ。」
「いいか、くれぐれもボムを困らせるようなことはするなよ。」
ヒヒヒヒン・・・。
シルクとサンダーは二人の言葉が分かるかのようにいなないた。
ティアたちが魔物退治に出かける時はいつもこうして愛馬をボムに預けるようにしている。というのも魔物退治は危険な仕事。もし二人にもしものことがあったら愛馬の世話をする者がいなくなってしまう。
だからそうならないよう近くに住むボム一家に愛馬の世話を頼んでいくのだ。ボム一家は牧場を経営していて二人からの頼み事も毎回快く受け入れてくれる。今回もボムから快諾を受けるとティアたちはその足ですぐさま汽車に乗った。

グリーンリッチ国のリキン村はここから汽車に乗って半日ぐらいの場所にある。汽車に揺られ二人はようやくグリーンリッチの駅についた。大急ぎで改札を抜けるとすぐに馬車を探す。馬車はすぐに見つかった。二人は馬車に駆け寄り御者に頼み込む。
「大急ぎでリキン村に行ってくれ。」
すると御者は訝し気な目で二人をじろっと見ながら
「リキン村に行けということはあんたらも魔術師かい?」
「そうだが・・・?」
アルクとティアは一瞬顔を見合わせて頷いた。すると御者は二人を軽蔑するような目で見てきたのだ。
「どうせあんたらも魔物が手に負えないと分かると尻尾まいて逃げ出すんだろう?昨日の魔術師のように。」
「え?」
どうやらリキン村の人々はティアたちだけではなく他の魔術師にも依頼していたらしい。御者の話から想像するとその魔術師は魔物と闘ってかそれとも闘う前にかは分からないが魔物に慄いて村人を見捨てて逃げ出したようだ。
「その魔術師のことは知りませんが俺らは最後まで戦うつもりです。」
アルクが決意を込めたまっすぐなまなざしで御者を見ながら言った。ティアも同様に迷いのない眼差しをしている。御者はこの人たちならやってのけるかもという期待感を持った。
「分かった、乗れ!馬車から振り落とされるなよ。猛スピードで行くからな!」
「「はい!」」
二人を乗せた馬車はもの凄い勢いで走り出した。


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