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作品名:魔王の器候補は両性体 作者:雲のみなと

第14回   14
抜け出す機会はすぐに来た。生徒たちが列をなして帰路を辿っていた時だ。
「うわぁああ!」
突如悲鳴があがった。
「どうした!!」
教師たちが慌てて悲鳴があがった方向に駆けだした。どうやら生徒の一人が誤って足を滑らせて2m下の斜面に転落したらしい。
「大丈夫か!?怪我は!!」
教師たちが焦りながら声を掛けた。ティアたち生徒全員が心配そうに下を覗き込んでいる。
「大丈夫です。でも足を挫いたみたい。」
生徒が上を見上げて声を張り上げた。不幸中の幸いで草で覆われた傾斜を滑り落ちたので軽症で済んだらしい。
だが捻挫したのでは自力では上がってこられない。
「そこで待っていろ。今助けにいく!」
ドルーがそう言って斜面を降り始めた。生徒たちの視線も教師たちの注意力も転落した生徒に集中してしまったのがよくなかった。魔物たちが攻撃してこないという事前情報も教師たちの油断を誘ってしまった。
「今よ!」
「!!」
コナーはいきなりミズリーの腕をとって走り出した。
「ちょっと待ってミズリー!」
「待てないわよ。先生たちに気づかれてしまうじゃない!」
コナーは嫌がるミズリーを強引に引っ張ってどんどんけもの道から逸れていく。顔や体に樹々の枝が当たり、木の根につまづきそうになってもおかまいなしに。
どれくらい走っただろうか。ようやくコナーが立ち止まった。それにつられてミズリーも立ち止まる。
辺りを見渡せば深い森の中、不気味さがより一層濃くなりミズリーの体が震えあがった。しかしコナーは涼しい顔をしている。
「ここまでくれば先生たちに見つからないわ。ここなら本物の魔物も見られる。」
「ねぇ皆の元に帰ろうよ。第一、二人だけでどうやってこの森から出るの?」
ミズリーの声は震えている。
「大丈夫。帰る時の為にコンパスを持ってきた。南に向かって歩けば森の外へ出られるわ。」
「でもその前に魔物に出会ってしまったら・・・。」
「いい加減にして!!それでもウィルソン一家の一員なの!!」
コナーは切れかけてミズリーを叱った。だがミズリーは目を皿のように見開いたまま固まっている。
「?どうしたの?」
しかしミズリーは顔面蒼白で答えない。コナーの背後に視線を固定して固まってしまっている。コナーの脳裏に嫌な予感が掠めた。恐る恐る振り向くと・・・。
そこには魔物がいた。それも2mは超える恐ろしい形相をしている魔物だ。背中に蝙蝠のような翼を生やし頭には大きな角がある。二足歩行で立っているが手はワニのような形をしていてかぎ爪で分厚く鋭い。鉄さえも切り裂きそうだ。
「出たわね!化け物!!」
コナーはそう吐き捨てると一瞬にして自分たちの周りに結界を張った。さすがにウィルソン一家の出だけある。魔物を目の前にしても動じない。
「バケモノ・・・。」
魔物がぼそりと呟いた。途端に魔物形相が変わった。コナーは何が魔物の逆鱗に触れたのか分からない。魔物は大きく手をあげ振りかぶった。そして次の瞬間手を振り下ろす。
「きゃあ!!」
ミズリーの悲鳴が上がった。コナーは呆然としている。自信があったおのれの結界は魔物の爪にいとも簡単に切り裂かれたのだ。
魔物の前に無防備な体となって投げ出されるコナーとミズリー。ミズリーは恐怖のあまり全身から力が抜けて地面に座り込んでいる。コナーは紙切れのようにいとも簡単に切り裂かれた結界に愕然としてすっかり戦意を喪失してしまった。
「お前たち人間はこの程度の脆い結界しか張れないくせに我らを排除出来ると奢っているのか。」
おどろおどろしい魔物の声がコナーたちの腹の底に響く。コナーたちは震えあがった。恐怖で体が固まり逃げることさえ出来ない。あるのは死への絶望だけ。
「バケモノ呼ばわりしたものに無残に殺される屈辱を味わえ!!愚かな人間ども!!」
魔物の咆哮がこだました。鉄をも切り裂く殺人爪がコナーとミズリーにめがけて振り下ろされた。
「「!!」」
死んだ・・・。コナーはそう思った。
しかし次の瞬間激しい閃光がコナーとミズリーを覆う。コナーとミズリーはあまりの眩しさに目を瞑った。
これが天国?コナーは不思議に思いそっと目を開ける。自分たちを包み込む温かな膜。しかし膜の向こう側では魔物がウーウーとうめき声を上げながら倒れていた。
「この膜は結界・・・。」
コナーは気づいた。しかし自分が作ったものではないのか明らか。
「コナーとミズリーから離れなさい!!」
凛とした声が響き渡った。
「この声は・・・!」
聞き覚えのあるティアの声。コナーとミズリーは声のした方をみるとそこにはやはりティアがいた。だがそこにいるティアはコナーたちが知っているいつもの優しいティアではなかった。
その表情は険しくて恐ろしいほどの威圧感をその体から発している。その姿はまさしく闘神。コナーとミズリーの背中が震えあがる。
コナーはこんなとんでもない魔力の持ち主に嫉妬していた自分の愚かさに笑えてきた。まるで何も知らない赤子と百戦錬磨の闘神。くらべものにならない。
倒れこんでいた魔物はティアの結界に触れた瞬間、弾き飛ばされたのだ。その証拠に魔物の爪が無残に割れていた。コナーは割れた魔物の爪を見てまたしても震えあがった。
どれだけすごいのよ、この結界。コナーはもはや苦笑いするしかない。中にいる自分たちは真綿で包まれているような優しさしか感じないのに。
魔物はティアに恐れをなして慌ててその場から立ち去った。するとティアはすぐさま結界を解いてコナーたちの元へ駆け寄った。
「大丈夫?怪我はない?」
ティアが二人を心から心配しているのが分かる。先ほどの闘神と同一人物とは到底思えないいつものティアだ。
「うわぁあああん。」
ミズリーが死の恐怖から解き放たれて安堵したのかティアに抱きついて泣いている。ティアは優しくミズリーの背中に手を置いて抱きしめた。
コナーはどうしていいか分からずその場に立ちつくしている。ミズリーのようには素直にには抱きつけない。
だってどんな顔してティアに向き合えばいいというのだ。今まであんなにティアを邪険にしてのけ者にしてきたのに。ティアがクラスメイトと馴染めずにいつも一人でいたのは自分のせいなのに・・・。しかし戸惑うコナーにティアは優しく微笑みかける。
「あなたが無事で良かった。」
「!」
途端にコナーの瞳から堰を切ったように涙があふれてくる。滲んだ視界の片隅に魔物が残していった鋭い爪のかけらが映った。
そうだ、ティアがいなかったら私たちは間違いなく死んでいたんだ。なんて愚かなことをしたんだろう。自分のわがままであやうくミズリーをも殺すところだった。ミズリーを巻き込んでしまった後悔の念と死ななくて良かったという安堵。
コナーは堪えきれなくなってティアの元へ駆け寄って抱きついて泣いた。ティアは優しくコナーを包み込む。
そこへ教師たちと生徒たちが血相を抱えて駆け込んできた。コナーとミズリーがティアに抱きついてわんわん泣いている。傍には魔物の爪が落ちている。それだけで何があったか教師たちは理解した。
「全く、ティアも無茶をするんだから。コナーとミズリーがいないと分かった時もティアがいきなり駆け出して森の中へ消えた時も先生たちの心臓が止まったよ。」
「行くな!!って叫んでも全然ティアは止まらないし追いつけないし生きた心地がしなかったわ。」
それを聞いてコナーとミズリーがびっくりしてティアの顔を見た。ティアがばつが悪そうにしている。
「先生ごめんさない。」
ティアは素直に謝った。
「ティアが大人しい子なんてとんでもない。あんな行動力があるなんて驚いたよ。」
トーマスがからかうように言った。
「それだけコナーとミズリーが心配だったんだね。」
ロマンが言うとティアが照れくさそうに頬を赤くした。
「ティア・・・。」
コナーとミズリーの心に温かいものが拡がっていく。
「それにしてもコナー!ミズリー!」
ドルーの叱咤にコナーとミズリーの肩がびくっと震えあがった。
「元はといえばお前たちが勝手に列を離れたからだ。学校に帰ったらたっぷり説教してやるから覚悟しておけ。」
ドルーの言葉どおりコナーとミズリーはたっぷりと油を搾られた。ティアも先生の制止を聞かなかったということでかなり怒られた。
しかしこの一件が劇的にティアとコナーたちの関係性を変えることになった。
コナーやミズリーと友達になったのだ。コナーはティアに嫉妬するのをやめた。あれだけ格の違う結界を見せつけられたあとでは嫉妬するのも馬鹿馬鹿しくなった。
それにティアは自分とミズリーの命の恩人だ。感謝こそすれ邪険にすることに意味などない。
コナーと友達になればそれに続いたのはクラスメイトたちだ。元々心優しいティアとはうまくやれそうな気がしていたのにコナーの気分を損ねないように友達になるのは遠慮していた。そのコナーがティアと一番の女友達になるとは世の中なにがあるか分からないものである。
ティアはクラスメイトと馴染んでいっても相変わらずアルクと一緒にいることはやめなかった。
常に一緒にいるティアとアルク。優秀な結界師と行動を共にする騎士の卵。いつしか二人を差別的な目で見る者はいなくなった。
アルクはめきめきと騎士としての才能を開花させ、ずば抜けた戦闘能力を見せつけるたびにアルクの足元にも及ばない自分たちは文句も言えなくなる。だって下に見るべきアルクが今や完全に自分の上を歩んでいるのだから。魔力のあるなしなんて関係なくなってしまった。
魔術師の世界は弱肉強食だ。力が物を言う。こうやってアルクは騎士としての才能で皆を黙らせた。
ティアが両性体ということも皆に受け入れられていく。男性としての凛々しさと女性としての柔らかさを兼ね備えたティアは女性たちの憩いの場となっていた。異性として意識はしないし、同性としても嫉妬することもない安心感だろうか。
でも相変わらず困ったことがある。それはトイレだ。ティアの半分は男性ということで男子トイレの個室を使っている。どこからどう見ても美しい銀髪の女性が、用を足している自分の後ろを平然と通っていくのだ。男性諸君はドギマギして委縮してしまう。困るのはそれくらいだろうか。

月日は流れティアは4年生に、アルクは5年生になっていた。


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