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作品名:魔王の器候補は両性体 作者:雲のみなと

第13回   13
ティアがこの学校に来てからもうすぐ10か月になる。教室でも寮でもひとりぼっちだが休み時間になればアルクと一緒にいられるので寂しくはなかった。それはアルクも同じ。

この日は課外授業がある。
入学してから一年未満の者たちばかりの一年生にとっては初めての課外授業だ。課外授業と言っても普通の学校みたいな遠足とかスケッチとかそんな生易しいものではない。
実際に魔物が棲んでいる森へと出かけ魔物と接する機会を与えられるのだ。これには危険が伴う。今日出会うであろう魔物はヨハイやカウナのように人間に対して敵意のないものばかりではない。
人間を敵と見なし、隙あらば襲って来ようとするものもいる。
むろんいくら生徒たちに攻撃力や結界力があるとはいえ皆未熟だ。充分な戦闘能力があるわけではない。それを考慮して比較的おとなしい魔物たちばかりが棲む森を選んだ。

学校から馬車で二時間ほど走らせたところにその森はある。その森の入り口手前で続々と生徒たちが馬車から降りた。教師は生徒たちを一列に並ばせる。
「いいか、これから魔物のいる森に入る。比較的大人しい魔物のいるここを選んだがそれでも魔物は魔物。カウナやヨハイのように人間に対して情はない。よって向こうがこちらに対して敵意を持てば攻撃してくる。もちろん手加減はしてこないだろう。用心に用心を重ねて警戒を怠るな。絶対に列から離れないように!!いいな!!」
「は・・・はい・・・。」
返事にはまったく元気がない。いつもはやかましいくらいの生徒たちがすっかり怖気づいている。そんな中、トーマスが隣にいるカイトにひそひそと声を掛けた。
「なんでこんなことするんだろうな。俺たちまだ一年だぜ?スパルタ教育過ぎるよ。」
「敵意むき出しの魔物に触れてそれに慣れさせる為と先生は説明していたけども・・・。」
「だったらヨハイとカウナでよくね?」
「ヨハイとカウナはいつも手加減しているし僕たちに対して情もあるから本物の容赦ない魔物を知るにはこうするしかないんじゃないのかな。」
「お前冷静だねぇ。」
「そんなことないよ。でもこんなにたくさん引率の先生がついているから大丈夫じゃないかな。」
カイトの言う通りだった。列の先頭には攻撃系の教師ドルーがいる。列の中腹ほどには結界師の教師が一人と透視系の教師も一人いる。最後列にも攻撃系の教師がいて生徒たちを見守っている。
もしもの時の為に万全の態勢だ。ちなみにローレイとポールは他国から魔物退治の緊急要請があってそちらに出向いている。

いざ森に足を踏み入れた。生徒たちの足元は心細げで覚束ない。
「怖いよぉ〜怖いよぉ〜。」
あちらこちらから怯え切った声が漏れる。その中でティアはしっかりとした足取りで歩いていく。
列は鬱蒼とした森のけもの道を踏みしめて奥へ奥へと進んでいった。濃い木々の葉に日差しが遮られて辺りは昼だというのに夜のような暗さだ。
ギャアギャア。突然獣の鳴き声がこだました。
「きゃあ!!」
「わぁ!!」
生徒たちは恐怖のあまりその場にしゃがみこんだ。
「大丈夫だ。あれは鳥の鳴き声だ。落ち着け。」
教師が宥めた。生徒たちは恐る恐る立ち上がる。また列は前へと歩き始める。

しかし歩いても歩いても魔物たちの気配はない。教師の一人が首を傾げて呟いた。
「おかしいな。そろそろ魔物に出会ってよさそうなものだが。」
「今日は魔物たちがいないのかもしれん。ミッチェル、魔物が近くにいるか透視してくれ。」
「分かったわ。」
ミッチェルは透視系の教師だ。同僚の依頼を受け目を閉じて透視を開始した。ほどなくして
「50m先10時の方向に一体。200m先の前方に一体。後方1km先に2体いる。どれもこちらを攻撃する気配はない。どの魔物もそれほど強くはないわ。こちらの様子を伺っているだけのようよ。」
ミッチェルの報告にその場にいる生徒たちは震えあがった。
「やっぱり魔物がいるのかよ。先生もう帰ろうよ。」
「怖いよ〜。帰りたいよー。」
生徒たちはすっかり怯えきっている。
「そうだな。攻撃してくる意志のない魔物を無理矢理おびき出して戦うのは魔道の倫理に反する。今日は帰るとするか。」
ドルーの提案に他の教師たちも頷いた。生徒たちはそれを聞いて心底ほっとする。しかしコナーだけは違った。コナーは退屈していたのだ。隣にいるミズリーの耳元にそっと囁きかける。
「ねぇ隙を見て二人で列を抜け出そうよ。」
先生に聞かれないような小さな声で誘った。
「駄目よ!!」
途端にミズリーが大声を出した。ドルーが驚いてミズリーを見た。
「どうしたミズリー。なにか見たのか。」
「なんでもありません先生。ミズリーったら小さな虫が服の中に入ってこようとしたので驚いただけです。もう大袈裟なんだからぁ。」
ミズリーの代わりに答えたのはコナーだった。
「ちょっとコナー!」
「しっ!黙って!!」
コナーがミズリーを睨みつける。ミスリーは恐縮して押し黙ってしまった。それを見て安心したのかコナーはまた小声でミズリーに話しかける。
「魔物たちはこちらを攻撃する気はないと先生が言っていたじゃない。それに弱いってさ。私たちには結界があるんだし大丈夫よ。」
「でも私たちまだ未熟よ。」
「そんなこと言っているからいつまでたってもティアに追いつけないのよ。ティアを追い越すには実践あるのみよ。追い越してティアの鼻をあかしてやりたくないの!?」
結局コナーにあるのはティアへの対抗心と嫉妬心。ミズリーはうんざりといった風にため息をついた。
「いい?先生の目を盗んで列を離れるわよ。私が合図したら一斉に駆けだすの。」
「・・・分かった。」
ミズリーは了解するしかなかった。コナーには逆らえないのだ。


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