「魔物といえば近頃はおとなしくしているようだ。相変わらず小物は人間に嫌がらせをしようとちょっかいをかけているみたいだが。」 ローレイが思い出したように切り出した。 「あぁ、魔王が人間界に来られないからな。魔王がいないと自分たちの魔力が存分に発揮出来ない。強い魔力を持たないから簡単に魔術師たちに退治される。それでストレスをためているから人間に悪さしてストレス発散でもしているんだろう。」 「ヨハイは随分他人事みたいに言うんだな。」 ローレイは笑いながら言った。 「だって他人事だしな。俺は人間に悪さをしたいとは思わん。それよりも早く生徒たちに強くなってもらいたい。そしてローラーの仇をうって欲しい。本当なら俺のこの手でローラーを殺した奴らを探し出して地獄より悲惨な目を合わせたあげくに八つ裂きにしてやりたいんだが・・・!」 こう話すヨハイの顔に黒い炎のような復讐心が揺らめいた。ローレイの背筋に寒いものが走る。 「人間界にいる魔物たちは魔王が魔界にいるから今はその魔力を半減させているわ。だから人間界ではだいそれたことが出来ない。もし魔王が人間界に来たら魔物たちはその力を倍増させるわ。魔王とその配下の魔物は切っても切れない関係だから、魔王がそばにいるだけで魔物の魔力は増す。逆に魔王が魔界にいる限り魔物たちの力はこのまま半減したままよ。だから魔物たちは魔王の器を必死で探しているわ。」 カウナが説明した。その顔は真剣だ。魔物たちの魔力は魔王の存在に大きく左右される。 魔王と自分たちの距離が大きく関係するのだ。魔王が自分の近くにいればそれだけで魔力が増し、魔王が遠ざかれば遠ざかるほど魔力が弱まる。 だから魔物たちは人間界に魔王を降臨させようと血眼になって器を探しているのだ。
ローレイはカウナとヨハイの話を聞いて思わずため息をついた。 「ため息をついている場合か。そんなことしている暇があったら少しでも早く器を見つけ出し保護しろよ。」 「分かっているよ。それにしてもカウナ、ヨハイ大丈夫か?」 「「何が?」」 カウナとヨハイが顔にはてなマークをつけて聞き返してきた。 「人間に魔王の器のこと、魔物ことをそんなに詳しく話して大丈夫なのか心配になるよ。あいつらにとってお前たちは裏切り者だから何かされないかと心配で。」 ローレイは本気で心配しているようだ。しかしヨハイとカウナはなんだそんなことと笑い飛ばした。 「心配するな。俺たちは自分の身は自分で守る。それにこの森はお前たちが張ってくれている結界で守られているからな。今の雑魚魔物たちでは俺たちに近づけないさ。」 「まぁそれはそうだが。」 ローレイは他の魔物たちを雑魚扱いするヨハイに思わず苦笑いをした。 「私たちは人間には恨みはないけれど大切なものを殺したあいつらには恨みがあるのよ。その恨みを果たす為ならこの命を失うのは怖くないの。だからローレイは魔術師たちの卵を早く一人前の魔術師に育ててちょうだい。私たちのような悲しい生き物をこれ以上増やさない為に。」 人間以上に優しい心根を持つカウナとヨハイ。ローレイの胸に沸き上がるものがあった。 「あぁ、約束する。これ以上カウナやヨハイのような思いをする者を作らない。」 ローレイは心に固く誓った。
今日は日曜日だ。ティアは朝早くから寮を飛び出しアルクと共に学校の近くにある小さな公園に遊びに来ている。 「次はシーソーやろうよ。」 ティアが心を弾ませながら誘う。ついさっきまでアルクと全力でかけっこしていたのに朝から元気だ。身体能力はアルクの方が数段上だから何回かけっこしてもティアは負けてしまうのだがそれでもティアはめげない。 「うん。」 アルクは誘われるままシーソーに向かった。アルクにはどうしても気がかりなことがある。 キーコーキーコー・・・。 シーソーが行ったり来たりしている。ティアの美しい銀髪の髪がふわふわと踊り、白皙の頬が桃色にほんのり染まっている。アルクはそれを見て綺麗だなぁと心から思った。 こんなにどこからどうみても女の子みたいなのに自分と同じものがついているなんてどうしても信じられなかった。アルクは思い切って尋ねてみた。 「ねぇティア。」 「なぁに?」 「ティアって両性体なの?」 「・・・。」 突然ティアが地面を蹴るのをやめた。シーソーが力を失って止まる。静寂が訪れた。そしてティアはうつむいたまま辛そうに口を開いた。 「・・・アルクも私のこと気持ち悪いと思う?」 アルクはびっくりした。そんなこと微塵も思っていなかったからいきなりそんなこと言われて焦りまくる。 「そっ・・・そんなことあるわけないじゃないか!!誰がそんなこと言ったの!」 アルクは本気で憤慨している。顔を真っ赤にして怒っているアルクを見てティアはほっとした。 「本当?」 「本当だよ!」 「じゃあずっと友達でいてくれる?」 「当たり前だよ。僕はずっとティアの友達だ。ずっとずっとティアの傍にいる!」 「ありがとう。」 ティアはこぼれんばかりの笑顔でアルクにありがとうと言った。その時からアルクの胸の高鳴りは止まらなくなる。この胸の高鳴りがなんであるかは分からないけれど自分はどんな時もティアの傍にいると心に誓った。両性体だろうがなんだろうがそんなのどうでもいい!!アルクは心からそう思った。
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