抜けるような青空の下、小高い丘の樹々が風に揺らめいている。 ここはヘロン王国。西の果てにある小さな国だ。小さいけれど世界にその名を轟かしている。大国でさえヘロン国には尊敬の念を抱いているのだ。 なぜならこのヘロン国には世界で唯一の魔法学校があるから。 その名は『ヘロン魔法学校』とても広大な敷地面積を持ち、校舎の裏には大きな森がある。校舎は3階建てが2棟ある。 校舎の外観はどこにでもあるようないたって普通の学校の様相を呈しているが、中にいる生徒たちはどれもこれも普通ではない。皆魔法が使える子供たちばかりだ。もちろん教師も魔法が使える。
この学校には世界中から魔力を持つ者ばかりが集まって来る。ここで本格的に魔術を学ぶためだ。 魔術とは何か?から始まり、魔力の発動、コントロール、道徳、倫理などを学び、生まれ持った魔力を磨きあげ自分の管理下に置き、魔力の暴走を防ぐ。そして卒業する頃には一人前の魔術師となりこの世の魔物と対峙していく。
魔物。そうこの時代、この世界では魔物が跋扈し、人間に対して悪事を働いたり嫌がらせをしたり、時として暴力を振るったり血生臭い事件を起こしていた。最悪の場合は人間を殺したりもする。 だから魔物を退治、あるいは封印する為の魔術師が必要となるのだ。いわばこの魔法学校は魔物と対峙する魔術師の養成所。
ここに入学してくる子供たちの年齢は様々だ。親が我が子に魔力が備わっていると気が付くのが遅いか早いか。それによってここに連れてこられる年齢が違ってくる。 早くから我が子に魔力はあると気がつけば6歳7歳で入学させるし、魔力があることに気づくのが遅ければ13歳14歳でも入学してくる。 中には子供の物心がつく頃から魔法があることを分かっていながら、学校に入れるのを嫌がって入学許可年齢ぎりぎりに駆け込みで入学させる親もいる。 というのもこの魔法学校は全寮制なのでどんなに幼かろうと親と離れ離れに暮らさなければならない。 子供と離れて暮らすのが耐えがたい親は我が子に魔力があることを隠そうとする。魔力がある子供は半強制的に入学させることが世界共通のルールになっているのでルールに逆らうことは出来ない。 なので泣く泣く入学させることになる場合もある。
その一方で、我が子に魔力があることを不気味がって一刻も早く手元から遠ざけたいと思う親もいて様々だ。そういう親の元に生まれた子はわずか3歳で学校に放り込まれることもある。かわいそうな話だが仕方がない。世の中には自分と異質なもの、理解出来ないものを排除しようとする人間もいる。例えそれが我が子であっても。 ちなみに生まれながらにして魔力を持って生まれてくるのは非常にまれでその割合は1000万人に1人と言われており、遺伝的なものもあれば突然変異的なものもある。だからこの世界のほとんどの者は魔力をもたない普通の人間だ。
本日、魔法学校1年の教室に新たな生徒が加わることになった。教壇の上、教師の隣には10歳の子供が一人立っている。 「今日から皆の仲間になるティア・アムスだ。皆仲良くするように。」 「ティア・アムスです。よろしくお願いします。」 ティアは自己紹介すると深々とお辞儀をした。様々な年齢の生徒たちは興味深げにティアを見ている。 「先生!」 その中の一人の生徒が勢いよく手を挙げた。 「なんだ?」 「その子は何歳ですか?それと何系ですか?」 「10歳で結界封印系だ。」 それを聞いた生徒たちが一斉にしゃべりだした。 「へぇ〜10歳か。」 「結界系ならコナー、ミズリーと一緒じゃん。」 「なんだぁ、治癒系じゃないのかよ。残念。あんなに綺麗な子なのに。」 「10歳の子供になに期待してんの、このエロ魔。これだから男子って下品で嫌なのよ」 「はぁ?!なんだと!?俺はロリコンじゃねぇよ!」 教室中が騒がしくなる。一方ティアはなんのことか分からなくてきょとんとしていた。 「静かに!」 教師が騒々しい生徒たちに喝を入れると教室はいったん静かになった。 「ティア、一番後ろの空いている席がお前の席だ。」 「はい。」 ティアは教師の指示を受けて自分の席に移動する。生徒たちがじろじろと見てくるのでティアは居心地の悪さを感じた。そんなティアの気持ちを察してか隣の席になる男の子が声を掛けてくれた。 「気にするな。入学してきたら始めは誰もこんな目で見られるんだ。そのうち慣れる。」 そう言ってニカッと笑う同い年くらいの男の子「ロマン」 ティアはロマンのおかげで少し緊張がほぐれた。 「ありがとう。」 ティアが笑顔でお礼を言った。途端にロマンの頬が赤くなった。耳たぶまで赤く染まっていく。無理もない。ティアはとても綺麗な子だから。 絹糸のような美しい銀髪を肩まで伸ばし、南国の海のようなエメラルドグリーンの大きな瞳、白皙の肌に薔薇色の形のよい唇。10歳にしてほのかな色気を醸し出している。どこにいても人の目を引くかなりの美少女だ。 これはモテまくるだろうと誰もが想像出来る。しかしティアはそうはならなかった。そうならないには理由がある。
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