仕事帰り、偶然道の向こうからやって来る父親を見かけた。 家の中で見る父親よりだいぶ年老いて見える。 幾分背が小さくなった父親の姿がやけに物悲しく思えた。 いや悲しいのは私の方か。 14年前に母親を亡くした時のことをふと思い出した。 溢れる涙が激しい雨に打ち付けられ後悔の港に沈んでいったあの日。 家族はとても大切。 そんなことは分かりきっているのにどうして普段の生活の中にいると忘れてしまうのだろうか。 標識のように当たり前すぎてたいしたことはないとたかをくくってしまうからだろうか。 この世にあって当たり前のものなんて何一つないとどんなに肝に銘じても結局粗末に扱ってしまう自分が嫌になる。 何度同じ過ちを繰り返せば気が済むというのか。 時計の針は永遠に右回り。気まぐれに逆行することなどない。 同じように老いも天の決め事に逆らうことはないのだ。 「親孝行したい時に親はなし。」 家族を大切にしないといつか必ず自分自身を傷つけることになる。 あの日後悔の港に沈んだ私の涙が家族の笑顔を抱きながらいまだ安らかな海に帰れずにいるように。
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