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作品名:陽だまりという名の喫茶店 作者:雲のみなと

第5回   政争
窓の外の暗闇が深くなるにつれ、そこかしこに溢れていた生活音もなりを潜めていく。
零時過ぎのこの耳に響くのはポタポタ・・・という水音だけ。
締まりが悪い蛇口から漏れる水滴がステレンスのシンクの上に落ちて今宵の唯一の音を作り出している。
騒々しいテレビは一時間前に消した。ワイドショーやニュースが作り出す世界は欺瞞と作り手とって都合がいい物語ばかり。
今、テレビ画面は政治家同士の足の引っ張り合いに終始して気に食わない相手を引きずり落とす劇場と化している。
見ているこちら側を味方に引き入れたいというよりはもはや洗脳。
どいつもこいつも洗脳合戦なのだ。
そこにこの日本を憂い愛する者はいない。
猿山のマウンティングを毎日毎日垂れ流すこの国の放送電波。
もううんざりだ。
うんざりしながら水音に耳を澄ます。シンプルかつ何ものにも染まっていない音にいつしか癒されていた。

いつだって水は水でいるだけだ。そこにどんな思惑もなくただ生まれたままの形でいる。
そりゃあ水だって絵具をたらせばその色に染まるけれどいつかそれは絵画へと姿を変え芸術となって人々の心を癒したり感涙させたりする。
それに対して今繰り広げられている政争はなんなのだ。そこに美学などない、哲学もない。
あるのは醜い足の引っ張り合いだけ。

私はちっとも偉い人間ではない。むしろたいしたことのない人間だ。善人でもないしどちらかというと小さな嘘を重ねながらようやくここまで生きてきたような人間だ。
他人においそれとは話せない後ろめたい過去もある。
だからこんな私が大本流である政治のことにあれこれ意見するのはおこがましいことというは分かっている。
分かっているけれどどうしても言いたいことはある。
聞きたいことがある。
そこに日本を愛する想いはあるのかと問いたいのだ。
正しいか間違っているかというのを知りたいわけではない。
法を犯しているかどうかではなく日本を愛しているのかどうかを知りたいのだ。

・・・なんて私が望む着地点に偏ったことをここで吐き出してみたけれど所詮私は無力。
なんの思惑も持たずに高いところから低いところに流れていくあの水のように生きられたらどんなに清々しいだろうと更け行く夜に願うだけ。


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