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作品名:言の葉の港 作者:雲のみなと

第7回   輪郭C
「じゃあ。」
彼はそう言って改札をくぐった。愛の終わりは実にあっけない。遠距離恋愛を望みもしない二人はブラックユーモア映画よりも残酷に終わった。こんなあっさりしたものだったらわざわざ見送りにこなくても良かったなと後悔もしたけど彼の意気揚々とした後ろ姿を見つめているうちにその後悔も徐々に薄れて行った。
彼は振り返らない。
だから私ももう振り返るのはよそう。
振り返ることを止めてくれたのは彼の背中。それが彼からの最後の贈り物だと思うことにした。
彼は行ってしまった。彼があれほどまでに県外にこだわったことや、私に「ついてこい」と言わなかったその理由を最後まで言わずに行ってしまった。
でもなんとなく分かっている。
私たちの愛はもうとっくの昔に終わっていたのだと。
終わっていたから彼は前に進めたのだと。
未来に進もうと前に目を向ける時、時としてその足かせになるのが恋愛だから。
今度は私が前に進む番だ。
私は私でまた誰かを愛するだろう。
彼は彼でまた誰かを愛するだろう。
二人の恋は終わったけど、終わったから次に進める。進んだ次がまた儚い愛であろうと新たな生活であろうと愛は愛、生活は生活だ。死ぬまで切り離せないもの。
彼を見送り、改札口を離れ辺りを見渡せばほんの少しだけ人々の輪郭が滲んでいた。
今は独りになったけどこの滲んだ景色は次の愛の為にある優しさだと信じている。
誰かに優しくなれるように。

                            END


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