あまりの辛さに耐えかねて彼に問い詰めた時もある。 「どうしてそんなによそに行きたいの!?」 「私のことなんてどうでもいいんでしょう!!」 「本当は好きな女が出来たんでしょう!!」 怒りのままに泣いて彼に縋って、時に喧嘩にもなった。でも彼はいつも 「しょうがないだろう。県外にしか仕事がないんだから。」 それしか言わなかった。罪悪感は一応あるのか私から目を逸らし弁明するように答える彼。 私はそのたび思い知ったのだ。 『もうこの人は私のことを愛してなどいないのだ』と。 しかしそう頭で理解していても心がどうにもいうことを聞かない。私は彼が唇を開くたび「俺についてきて」という言葉が放たれるのを待ち望んでいた。 強情でプライドが高いくせに恋愛というものに対してはいつも受け身な私は自分から「あなたについていきたい。」とはとうとう言い出せなかった。彼の重荷になりたくないとかそんな殊勝な考えがあったから言い出せなかったのではない。そんなやまとなでしこような従順さがあったら彼を問い詰めたり責めたりさえしなかってであろう。 私はただ従順になれなかった、そしてついて来いと言わない彼についていく勇気もなかっただけ。 そして思ったのだ。もしかして二人の三年間は幻だったのかもしれない。愛し愛されたという幻。現実には存在しなかった月日。とてつもなく独りよがりな私の欲望が見せた桃源郷。
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