あれは夢かと思うくらいに一番星が綺麗な夕暮れだったろうか。いや夕暮れというには遅すぎて夜というには早すぎる時間だったか。 陽は地平線の向こうに沈みかけ、それにつられて辺りの建物や草花の輪郭は薄っすらと滲みでて今にも煙となって消えてしまいそうだった。この世に存在しているものすべてに重みなんてないように見える、なのに空へと浮かび上がらないのが不思議に思えた。 あの日は本当に不思議な一日だった。 その日、三年間付き合っていた彼が遠い場所へと行ってしまったのだ。今にして思えば彼の心はもっと前から遠い場所へと行ってしまっていて体がそれについっていっただけのこと。 彼は県外への就職を希望していた。県外からの求人票は彼にとって何よりもありがたく思えたであろう。まるで遠くに離れた愛しい人を思うかのように丁重にそれを扱い、面接を申し込む電話に目を輝かせいた。 彼はなぜあんなにも県外に行きたがっていたのだろうか。私がいるこの地元からなぜそれほどまでに逃れたかったのか。県境の向こうには宝の山でもあるのというのか。 彼は私には見えない宝の地図を必死で攻略しようとしていた。隣にいる私のことなどまるで始めからいないかのように没頭して・・・・。 就職難の昨今、職があるのは素晴らしいことだねと理解のある女のふりして彼を応援したりする私。口では「頑張って」と言ってみるものの内心は胸が張り裂けそうだった。 なぜここにとどまると言ってくれないのか。なぜ私と一緒にいたいと言ってくれないのか。私はあなたにとってそれほどまでに価値のない存在だったのか。 愛し合った三年間の月日がまるでガラクタ以下に思えてきて苦しくて悲しくて。
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