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作品名:物足りないかもな不思議体験 作者:雲のみなと

第1回   失くした指輪
 品物を傷つけてしまわないように職場では指輪を外すように言われ、仕事が終わってから指輪を付け直す毎日。
幾何学の文字が入ったシルバーの指輪をつける度に私は心の中で願いことを唱えていた。この指輪は誰かから貰ったというものではなく願掛けの為に自分自身で購入したものだ。
それが昨夜、どこかに消えてしまった。失くしてしまったのだ。いつものように仕事を終えてから指輪をつけ買い物に出かけ帰宅してふと自分の左手を見ると指輪が消えていた。あるはずのものがない。焦った。どこかに置き忘れたのか、それとも自然と外れてしまったのかまったく思い出せない。
自宅に着いた時に毎回手を洗うからその時に指輪を外した?慌てて洗面台に向かったが辺りを見渡しても指輪は見つからない。それではと歩き回った場所を探してみたがそれでも見つからない。バックの底もあさったが言わずもがな。
その時ふと思った。
「これでやっと願いが叶うのかな・・・。」
これでいいんだとさえ思った。心のどこかでほっとした。
ずっとずっと密かに願い続けてきたこと。ミサンガは切れた時に願うが叶うと言われているようにあの指輪を失くした時に願いが叶う。
なんの根拠もないけれどそう思う事にした。失ったことを嘆くよりそれによって得られるであろう未来に期待したい。大切な指輪だったけどきっとそれに値するくらいの大切なものがまた新たにやってくる。
そう思えば指輪は失くした焦りもショックも薄れていくような気がした。
何かに振り回されてさて困ったというだけではあまりに従順過ぎる。それよりも自分がどう思うかが肝心。

 この世に生れ落ちてうん十年・・・。生まれてきたことが良かったのか悪かったのか思い悩む日もあるけれどあまり深追いはしないようにしている。生まれてきた意味を突き詰めて考えるのは深淵を覗き込むようで怖くなる、気を緩めると谷底へ吸い込まれてしまいそうになるからだ。
この年まで生きていると様々な不可思議なことに出会ってきた。生まれてまもなく不思議な目に合う人もいるだろうけど私は違う。どちらかというと霊感は無い方だと思っている。ただ、勘みたいなものは働く方で職場の人からも「あなた勘いいね。」と言われることはある。
こんな私がごくたまにではあるけれど不思議な経験をしたことがあり、今日はその話をしてみようと思う。
   



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