水平線、その虚しさ優しさ
  波しぶきが粉雪のように舞い、海辺に佇む私の肩を濡らしている。
  この海の一滴にどれほどの悲しみと慈しみが溶け込んでいるのかにふと思いを馳せる。
  無邪気に浜辺で砂遊びをしていた子供の頃には見えなかった波間に隠された感情。
  海の青さは水平線を見つめながらこぼした涙がたくさん集まって出来た色だ。
  水平線は遠い。
  何もかも遠い。
  遠すぎて手に入らないその虚しさに泣き
  遠くにあるからこその優しさに泣く。
  なぜなら何もかも手にした後でやってくる虚しさは
  なかなか手に入れることが出来ない虚しさを凌駕してしまうから。
  人は欲張りな生き物だから水平線の向こうにある国にたどり着いてしまったら
  そこからまた彼方にある水平線を見つめもっと遠い場所へと行きたがるだろう。
  際限のない遠くへの憧れ、海はいつだってそれを用意してくれている。
  それは優しさ。生きる意味を失わさせない為の長い回廊。
  そして私はことあるごとにこうやって海辺まで出かけ
  遠く青くぼやける水平線を見つめている。
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