カスタード・ギター
  「ずっと一緒にいられたらいいね。」
  未来が見えていないそんな言葉でもあなたがくれたというだけで幸せな気持ちになれた。
  とても温かい気持ちになれた。
  しかし、今思うのは言葉にするのは容易いけれどそれを現実のものにするのはどれだけ大変なことか
  この世界はそういうもので溢れている。
  数年の年月を経て分かったのは結局私の恋もそういうものだったということ。
  ふとラジオをつけてみた。偶然流れる音楽。
  体の周りに落ちてくる音にそっと心を寄せる。
  濃厚で憂いのあるアコスティックギターの音色。
  言葉を持たぬ泣き癖に満ちたそれは言葉よりも遥かに芳醇に恋を語る。
  きっとこの同じ夜空の下、見知らぬ恋人たちも肩を寄せ合いこの曲を聴いているのだろう。
  恋の行方など知る由もない刹那な恋人たちの語らい。
  その不用心なまでの甘さは傷ついたこの胸に沁みてとても痛いけど
  今はラジオのスイッチを切る気にはなれない。
  郷愁が溶け込んだ、カスタードのように甘い音色、カスタード・ギターに遠い日の面影を重ね
  そっと瞼を閉じればあの日の恋が涙を流しているのに気付いた。
  でも何もしてやれない。慰めることも出来ない。
  あの恋を失うしかなかった私に何が出来るというのだろう。
  今はただ、切なさに胸を締め付けられながらカスタード・ギターに心をさらわれるだけ。 
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