握りこぶし一つ分の心臓
君が転校する前日、教室の皆でお別れの歌を歌った。
君は覚えているだろうか。
君が教室からいなくなって一年後、私も転校することになったんだよ。
人気者の君が転校する時みたいには私の転校は皆に悲しんでもらえなかったけど
心の中では転校を喜ぶ自分がいた。
なぜなら誰かに置いてけぼりにされる悲しみよりも
置いてけぼりにする辛さの方がマシだと分かったから。
多分私は君のことを好きだったんだと思う。
あれから何年、何十年経っただろう。
今でも時々こうして転校した時のことを思い出す。
転校したあの日からいろいろなことがあって苦い思い出ばかり蘇るけど
今一つだけ誇りに思う事がある。
弱弱しい私だけどこの胸の中で波打っている握りこぶし一つ分の大きさしかない心臓
この心臓がこの世界とあの大空と渡り合って生きている。
そのことを不思議に思うのと同時に誇らしくも思えるんだ。
君は元気で暮らしているかな。
どんなことがあろうとその胸にある誇りを忘れずに生きていて欲しい。
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