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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第99回   自分に厳しく、他に優しく!
アニーは感心して、きょん姉さんを見ていた。
「葛城さんの性悪説は、迫力があって面白いわ。」
「実はこれは、性悪説というのではなくって、欲悪説なんです。」
「欲悪説?」
「紅流欲悪説義と言います。」
「紅流欲悪説義?」
「簡単に言うと、人間の根本は欲であり、欲は悪であるという考えです。」
「つまり、人間の欲は悪であるということですか?」
「はい。人間の欲は悪です。」
「人間の存在自体が、悪ということですか?」
「いいえ。」
「存在に、悪も正義もありません。存在は存在です。無です。」
「存在は無?」
「存在は無で、ただそこに、物理的な無としてただ在るだけなのです!」
「物理的な無として在る?」
「はい。」
「なんだか、量子物理学みたいですねえ?」
「はっ、何ですか、それ?」
「わたしにも、よく分からないんですよ。言葉だけ知っているんです。」
「欲を持った人間は、欲望に目覚め無でなくなり、その欲望をコントロールできなくなって、そして苦しみます。それを、紅流では欲苦と言います。」
「欲苦…」
「欲苦になった人間は、欲苦存在となり、無ではなくなります。」
「無ではなくなる…」
「つまり、コントロールできない欲望を、紅流では悪と言います。」
「なるほど。」
「で、欲悪となるんですよ。」
「な〜るほど!」
「人間は、自然のままでは、自分の欲望に苦しむんです。」
「な〜るほど。だから!」
「だから、道徳心が必要なのです。」
「自分のためにですね?」
「そうです。自分の欲望をコントロールするために!厳しく律して、心が安らぐために!」
「心が安らぐために。」
「はい!自分の心が安らげば、他の人の心も安らぎます。」
「すばららしいわ!」
「紅流では、幼い頃から、体術と一緒に習います。」
アニーは、感心してひたすらに手を叩いて、姉さんを見ていた。姉さんは、紅流の手刀立ちで構えた。
「自分に厳しく、他に優しく!」
「お見事!」
姉さんは、皮肉っぽく微笑みで返した。



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