支配者のいなかった昔の日本人は、自然に従って生活していたんじゃないかしら。」 「きっと、そうですね。」 「権力者が人々の労働本能を利用して、無理やりに働かせて、収穫した物を搾取していたんだわ。」 「そうですね。」 「人々は、いつの時代にも、時の権力者に利用されて生かされているんだわ。」 「生かされている?」 「はい。自ら生きているんじゃなくって、無理やりに生かされているんですよ。家畜のニワトリのように。」 「毎日、玉子を産むようにですか?」 「そうです。そして、玉子を産まないニワトリは捨てられ、人間は犯罪者扱いされます。」 「つまり、ちゃんと働かない人間は犯罪者扱いされるんですね?」 「そうです。新日本赤軍の由井正雪丸は、犯罪者は革命家であると言っています。極端な論理ですが、そういう考え方もあります。」 「犯罪者ほ革命家?」 「わたしは、そうは思いませんけど。」 「それって、アニーさんが、さっきわたしに教えた、革命家のプロパガンダってやつじゃないですか?」 「さっすが、葛城さん。その通りです!」 「父も同じようなことを言ってました。」 「えっ?」 「勝てば官軍、負ければ賊軍って。悪も正義も、時の権力者によって変わるって。」 「そうです。」 「日本の常識は、世界の不常識とも言ってました。」 「そうです。特に日本は、ガラパゴス化していますから。」 「ガラパゴス化?」 「日本だけは、世界に関係なく独自に進化しているんですよ。」 「それって、いい意味ではなくって、悪い意味で?」 「そうです。」 「なるほどねえ…、日本は島国ですからねえ。アニーさんは、心理学者だけあって、やっぱり考えが深いわ!」 姉さんは、しきりに感心して頷いていた。 「つまり、アニーさんは、人間の本当の姿は、本性は善だと言っているんですね!その善意を、ずる賢い時の権力者が利用しているんだと!」 「えっ、わたし、そんなこと言ったかしら?」 アニーは笑っていた。 「つまり、アニーさんは性善説なんですね?」 「えっ、わたし、そんなこと言ったかしら?」 アニーは笑っていた。が、姉さんは、しきりに感心して勝手に頷いていた。 アニーは尋ねた。 「じゃあ、葛城さんは、性悪説?」 「はい、そうです!人間は、生まれながらの悪党です!」 「え〜〜、そうなの?」 「はい!人間は、自然や他の動物を無視する極悪非道のエゴイストです!」 「極悪非道のエゴイスト?」 「放っておくと、何をするか分かりません。平気で人殺しはするし、正義といって戦争はするし…」 「なるほど。」 「だから、道徳教育が必要なんです!」姉さんの左正拳が、空を突いた。 「なるほど!」 「紅流にも、独自の道徳があります!」姉さんは、奇声を発した。「キェ〜〜〜ッ!」姉さんの、必殺二段前蹴りが空を蹴った。 アニーは、しきりに感心して頷いていた。姉さんは、紅流の手刀立ちで身構え。目は、内なる道徳的な怒りに血走っていた。姉さんは虚空に向かって、邪悪な魂を払うように決めた。 「キェ〜〜〜ッ!」 姉さんの正義の右正拳が、目の前の空を貫いた。 アニーは手を叩いた。 「お見事!」 姉さんは、皮肉っぽく微笑みで返した。
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