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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第97回   日本の原風景
アニーは、操縦しながら姉さんに尋ねた。
「葛城さん、何やってるんですか?」
姉さんは、紅流の型で踊りながら答えた。
「シャドー紅流です。アニーさんの操縦が上手いもので、ついつい嬉しく楽しくなってきちゃったんです。それで、自然に身体が動き出して。」
「相変わらず、アクティブですねえ。」
姉さんは、踊りながらもモニターを見ていた。
「葛城さん、今から研究所の上空に行くので、うまく映っているか見ていてください。」
「はい!」
姉さんは、踊るのを止めた。モニターの前に立った。
「見てます!いいですよ。」
「じゃあ、行きます!」
「はい!」
模型飛行機は、大きく旋回して人間村研究所に向かった。上空を通った。
「どう、ちゃんと撮影されました?」
「もう一度、お願いします。」
「はい!」
アニーは、今度は五回繰り返した。
「いいのありました?」
「はい!ありました。」
「じゃあ、戻します。」
2分半ほど時間が余っていた。
「ちょっと、高野山内を一回りします。」
「はい。」
模型飛行機は、大門まで行き、奥の院上空を飛行して戻ってきた。
「あっ、ちょうど時間だわ。」
飛行機は着陸体勢に入った。着陸した。アニーは、コントローラーから端子を引き抜くと、受付の小屋に向かって歩き出した。
「葛城さん、終わったわ。行きましょう!」
「はい。」
「どうしたんですか、さえない顔してますよ?」
「途中、最後のところで映らないところがあったんですよ。」
「どの辺りですか?」
「弘法大師が眠っているところ辺りです。」
「そうですか…」
受付に着くと、アニーはメモリーを引き抜き、コントローラーを受付の男に返した。
「無事に終わりました。ありがとうございます。」
「もういいんですか?」
「はい。」
「ちょうど五分なので、千円です。」
アニーは代金を現金で払った。
「最後のところ、映ってない場所があったんですけど?」
「あ〜〜、奥の院の御廟(ごびょう)あたりでしょう?」
「はい。どうして?」
「あそこは、撮影禁止なんです。だから、あの場所は自動的にカットされるんです。」
「ああ、なるほど!」
高野山に詳しいアニーは、直ぐに納得した。脇から姉さんが言った。「壊れたのかと思っちゃった。」
男は姉さんに答えた。
「あそこは、プロパティ・リリースが必要なんです。」
「また聞いたことのない言葉。何ですか、それ?」
姉さんは、欧米人のように両手の平を返して見せた。
「撮影禁止の場所なんです。だから撮影許可が必要なんです。」
「それが、その何とかリリースってやつですか?」
「プロパティ・リリース。そうです。」
「そうですか、大変勉強になりました。どうもありがとう。」
「いいえ、とんでもない。また来てください。」
「はい、また来ます。」
男は、姉さんの顔を見てニコニコしていた。
二人は模型飛行場の前の道に出た。道の向こうは、道に沿って御殿川(おどがわ)が流れていた。
「あの人、わたしの顔を見て笑っていたけど、何かしら?」
「きっと、葛城さんの踊りを見ていたんですよ。」
「あっ、そうか。」
アニーは、二の橋に向かって歩いていた。姉さんは質問した。
「あれっ、もう帰るんですか?」
「取り合えず、帰って撮影したものを見てみましょう。」
「はい。」
御殿川(おどがわ)の反対側には、川に沿って畑があり、柿の木が植えられてあった。夫婦らしい二人が、食べごろの柿を収穫していた。アニーは二人を微笑ましく見ていた。食いしん坊の姉さんは、にこにこしながら柿の実を見ていた。
「美味しそうな柿だなあ〜。」
「いいですねえ、こういう風景は。」
「そうですねえ〜、日本の原風景ですねえ。」
「昔はどこも、こういう風景だったんですよね。」
「そうですねえ〜。」
「日本も、すっかり変わりましたね〜。昔の風景や人々が懐かしいな〜。」
「昔って、どのくらい昔なんですか?」
「そうですねえ、縄文時代くらいかな…」
「え〜〜〜〜〜!?」



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