アニーは、操縦しながら姉さんに尋ねた。 「葛城さん、何やってるんですか?」 姉さんは、紅流の型で踊りながら答えた。 「シャドー紅流です。アニーさんの操縦が上手いもので、ついつい嬉しく楽しくなってきちゃったんです。それで、自然に身体が動き出して。」 「相変わらず、アクティブですねえ。」 姉さんは、踊りながらもモニターを見ていた。 「葛城さん、今から研究所の上空に行くので、うまく映っているか見ていてください。」 「はい!」 姉さんは、踊るのを止めた。モニターの前に立った。 「見てます!いいですよ。」 「じゃあ、行きます!」 「はい!」 模型飛行機は、大きく旋回して人間村研究所に向かった。上空を通った。 「どう、ちゃんと撮影されました?」 「もう一度、お願いします。」 「はい!」 アニーは、今度は五回繰り返した。 「いいのありました?」 「はい!ありました。」 「じゃあ、戻します。」 2分半ほど時間が余っていた。 「ちょっと、高野山内を一回りします。」 「はい。」 模型飛行機は、大門まで行き、奥の院上空を飛行して戻ってきた。 「あっ、ちょうど時間だわ。」 飛行機は着陸体勢に入った。着陸した。アニーは、コントローラーから端子を引き抜くと、受付の小屋に向かって歩き出した。 「葛城さん、終わったわ。行きましょう!」 「はい。」 「どうしたんですか、さえない顔してますよ?」 「途中、最後のところで映らないところがあったんですよ。」 「どの辺りですか?」 「弘法大師が眠っているところ辺りです。」 「そうですか…」 受付に着くと、アニーはメモリーを引き抜き、コントローラーを受付の男に返した。 「無事に終わりました。ありがとうございます。」 「もういいんですか?」 「はい。」 「ちょうど五分なので、千円です。」 アニーは代金を現金で払った。 「最後のところ、映ってない場所があったんですけど?」 「あ〜〜、奥の院の御廟(ごびょう)あたりでしょう?」 「はい。どうして?」 「あそこは、撮影禁止なんです。だから、あの場所は自動的にカットされるんです。」 「ああ、なるほど!」 高野山に詳しいアニーは、直ぐに納得した。脇から姉さんが言った。「壊れたのかと思っちゃった。」 男は姉さんに答えた。 「あそこは、プロパティ・リリースが必要なんです。」 「また聞いたことのない言葉。何ですか、それ?」 姉さんは、欧米人のように両手の平を返して見せた。 「撮影禁止の場所なんです。だから撮影許可が必要なんです。」 「それが、その何とかリリースってやつですか?」 「プロパティ・リリース。そうです。」 「そうですか、大変勉強になりました。どうもありがとう。」 「いいえ、とんでもない。また来てください。」 「はい、また来ます。」 男は、姉さんの顔を見てニコニコしていた。 二人は模型飛行場の前の道に出た。道の向こうは、道に沿って御殿川(おどがわ)が流れていた。 「あの人、わたしの顔を見て笑っていたけど、何かしら?」 「きっと、葛城さんの踊りを見ていたんですよ。」 「あっ、そうか。」 アニーは、二の橋に向かって歩いていた。姉さんは質問した。 「あれっ、もう帰るんですか?」 「取り合えず、帰って撮影したものを見てみましょう。」 「はい。」 御殿川(おどがわ)の反対側には、川に沿って畑があり、柿の木が植えられてあった。夫婦らしい二人が、食べごろの柿を収穫していた。アニーは二人を微笑ましく見ていた。食いしん坊の姉さんは、にこにこしながら柿の実を見ていた。 「美味しそうな柿だなあ〜。」 「いいですねえ、こういう風景は。」 「そうですねえ〜、日本の原風景ですねえ。」 「昔はどこも、こういう風景だったんですよね。」 「そうですねえ〜。」 「日本も、すっかり変わりましたね〜。昔の風景や人々が懐かしいな〜。」 「昔って、どのくらい昔なんですか?」 「そうですねえ、縄文時代くらいかな…」 「え〜〜〜〜〜!?」
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