「さっきの、大気中の二酸化炭素をドライアイスにして地球を冷やす話なんですけど。」 「はい。」 「ドライアイスは、液体から固体にしたものです。」 「はい。」 「空気中から二酸化炭素だけを取り出して、それを圧縮して液体にするのだけでも、かなりの設備と手間が掛かると思います。圧縮するときには、多量の熱も出るだろうし、専門家ではないので、断言はできませんが。」 「はい。」 「それに、地球上の二酸化炭素は多すぎます。無理だと思いますよ。」 「そうですか…」 「でも、そういう話しはあるんですよ。」 「えっ?」 「ばら撒くんじゃなくって、地中深くに埋めるという話しが。」 「ドライアイスにしてですか?」 「そんな手間のかかることはしなくって、そのまま埋めるんですよ。」 「二酸化炭素を、そのまま?」 「はい。」 「そんなことをして大丈夫なんですか?」 「さ〜〜〜、どうなんでしょう?」 「地震の地割れとかで、地表に出るってことはないんですか?」 「そうですねえ…」 「一気に出ると危ないんじゃないんですか?」 「二酸化炭素は多量に吸い込むと、窒息死します。」 「わ〜〜〜、怖い!」 「根本的な解決策ではありませんよね。」 「そうですよ〜、そんな子供だましみたいなの〜。」 「それに、取り出すのは、空気中じゃなくって、火力発電所の排気からなんです。」 「な〜んだ。」 「でも、そこまで追い込まれているんでしょうね。」 「だったら、いっそうのこと、蟻みたいに人間が地中にもぐって生活したらどうでしょう?」 「蟻みたいに…」 「地中だと涼しいし。」 「そうですねえ。」 「きっと、そうなりますよ、毎年のこの暑さじゃあ。」 突然、受付の若い男が出てきた。 「すみませ〜〜〜ん!」 二人は、きょとんとして、その若い男を見た。アニーが答えた。 「何でしょうか?」 その男は、ぺこりと頭を下げた。 「すみません。わたしはこういう者です。」 名刺を差し出した。ここの従業員の者だった。 「突然ですが、ここのホームページのモデルリリースを、おねがいしたいんですけど?」 アニーは首を傾げた。 「モデルリリース?」 姉さんが尋ねた。 「モデルリリースって、何ですか?」 「肖像権使用許諾書です。」 姉さんは、欧米人のように両手の平を見せて、「はっ?何ですか、それ?」と、言い返した。 「お二人が、あまりにもビューティだったので、ぜひホームページに写真を載せていただければと思いまして。」 「え〜〜〜、ホームページに?」 「はい!」 「アニーさんと、わたしを!?」 「はい!」 「ビューティって、わたしたち二人がビューティフルってこと?とっても、ビューティフルフルってこと?」 「はい。」 「わ〜〜〜〜〜、あなたは若いのに、とってもお目が高い、喜んで!」 「勿論、無料ではありません。」 「え〜〜、お金まで頂けるの〜〜!?」 「はい。」 アニーが止めた。 「駄目です!」 アニーの口調は冷静だった。 「光栄ですけど、わたしたち公用なんです。そういうのは禁止されているんです。すみません。」 「あ〜〜、そうなんですか。それは残念です。」 姉さんはアニーを見ながら、きょとんとしていた。 模型飛行場の前の道に小型のゴルフ場のカートみたいな自動車が止まった。若い女性がハンドルを握って乗っていた。後ろの座席には、女子高生の制服の女性が二人乗っていた。一人が降りて、やってきた。 「お兄ちゃん!」 「よっ、雪子!どうした?」 「ちょっと下まで行って来る。」 「下まで?」 「橋本あたりまで。あれで。」自動車を指差した。 「電気自動車。あれなら環境の犯罪者みたいに、空気を汚さないからいいでしょう?」 「そうだな。あの人、誰?」 「友達の御姉さん。」 「スピード出すなよ。」 「あれは、時速三十キロしか出ないの。」 「あっ、そうか。じゃあ大丈夫だな。今日は、学校は休みだったな。」 「うん。」 「スピードが遅すぎると、後ろからの自動車に気をつけろよ。」 「うん!」 「その格好で行くのかよ。」 「うん、駄目?」 「おまえが良けりゃあ、それでいいよ。」 「じゃあ、行って来るね。」 「あっ、何時ごろ帰るんだよ?」 「分からないけど、夕方頃かな?」 「分かった。暴走車や年寄りの変な運転が多いから気をつけろよ。」 「逆走とか?」 「ああ。不摂生の年寄りは脳血管が詰まっているからな。年寄りは目も悪いし、反射神経も鈍いし、とにかく気をつけろ!」 「気をつけるよ。じゃあ行って来るね!」 「脳血管の詰まってる年寄りは、アクセルとブレーキを間違えるからな、気をつけろよ!」 「毎日ニュースで見てるから、分かってるって!」 雪子は、高校の制服姿で電気自動車に乗って去って行った。 きょん姉さんは、男に質問した。 「今の人、妹さんなんですか?」 「はい、そうです。」 「可愛い人ですねえ。」 「そうですか?」 「はい、とっても。妹さんを、モデルにすればいいんじゃないですか?」 「頼んだんですけど、断られたんですよ。」 「断られた?」 「はずかしいから嫌だって。」 「そうなんですか。」 「たとえ肉親でも、肖像権使用許諾書が要るんですよ。」 姉さんは驚いた。 「え〜〜〜〜〜〜、そうなんですか!?」 「はい、そうなんです。たとえ自分の子供でも。」 「え〜〜〜〜〜〜、そうなんですか!?」 地球では、異変が起こりつつあったが、太陽は大宇宙の法則に従い、まるでアイドルのようにギンギラギンにさりげなく明るく光り輝いているだけだった。
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