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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第94回   悟りは常に脚下にあり!
「大海のクジラ、井の中を知らず、か…」
「大海のクジラ、井の中を知らず?面白いですね、何ですか、それ?」
「井の中の蛙、大海を知らず。の逆です。」
「面白いですね〜〜!」
「地球環境主権論の、保土ヶ谷龍次の言葉です。」
「面白い言葉だなあ。さすが龍ちゃん。」
「地球環境主権論、読んだこと無いんですか?」
「ちょっと読んだんですけど、内容が難しくて、途中で止めたんです。ああいう書き方は、どうも頭に入ってこなくって。」
「そうなんですか。」
「こんど、また読んでみます。」
「科学的で、なかなか面白いですよ。」
「そう、その科学的ってのが、どうも駄目なんですよ。」
「馴れですよ、馴れ。」
「そうですかねえ。」
「科学的な言葉に慣れてないだけですよ。」
「そうなんでしょうかねえ。」
姉さんは、少し悲しい目になった。
「わたし、時代遅れの非科学的な非文明人なのかしら?」
「そんなことありませんよ。」
「そうなのかしら?」
「あんなに色んなことを考え付くなんて、科学的頭脳ですよ〜〜。」
「じゃあ、わたしは、天然の科学的なんですか〜!?」
「はい!」
「わ〜〜〜、感激〜〜!今日は赤飯だわ〜!」
やっぱり、とてもめでたい姉さんであった。
「葛城さんに、悲しい顔は似合いませんよ。」
「わたし、悲しい顔をしていました?」
「はい、ちょっとだけ。」
「わたし、悲しい顔は皺が増えると思うと疲れるので、五秒と持たないんです。」
「さすがですね。素晴らしいポジティブな考えです。」
「考えてるんじゃないんです。」
「考えているんじゃない?」
「父の教えなんです。紅流の教えなんです。」
「紅流の?どういう教えなんですか?」
「難しいことは考えるな、悟りは常に脚下にあり!です。」
「悟りは常に脚下にあり…、脚下とは、足の下、つまり身近にあるという意味ですね?」
「はい、その通りです。」
「なるほど、素晴らしい教えですね。」
「そうですか、ありがとうございます。」
姉さんは目を閉じ、両親指を立てて手を合わせた紅流で合掌して、深く礼を言った。
アニーは、急に姉さんの顔を見た。
「葛城さん!」
「わ〜〜、びっくりした。何ですか?」
「言葉は違うんですけど、同じ意味です、それは。そしてそれは、答えです!」
「えっ?」
「大海のクジラ、井の中を知らず。ってのは、そういう意味だったんですよ。」
「そういう意味?」
「悟りは常に脚下にあり!ってことです。」
「えっ、そうなんですか?」
「…今、気がつきました。」
「えっ?」
アニーは、しきりに眉間に皺を寄せて、自分に向かって頷いていた。姉さんは、アニーの顔を見ていた。
「そんな顔をしていたら、綺麗な顔に皺ができますよ。」



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