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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第91回   フォックススリープ
きょん姉さんは、にやっと笑った。
「あの人、きっと私たちを、からかったんだわ。」
「そうかも知れませんね。」
「それ以外には、考えられませんよ。」
「そうですね。」
「随分と、暇な人だなあ。」
「なんだか、キツネにつままれたみたいだわ。」
「キツネにつままれた?」
「こういうとき、そう言いません?」
「言います、言います!ひょっとしたら、今の人、ほんとうにキツネだったのかも知れませんね?」
「まさか。」
「小峰さんが、水木しげるのアシスタントの話って、かなり昔の話ですものね。」
「今、ここにいるわけがありませんよね。」
「いたら、相当の歳ですよ。あんなに若いわけがありませんよ。」
「そうですそうです。あんなに若かったら、キツネの化け物です。」
「キツネの化け物?」
「キツネが今朝の番組を見たのかもしれませんよ。」
「まさか。」
二人は、顔を見合わせて笑った。
「アニーさんって、時々おかしなことを言いますねえ。」
「そうかしら?」
「想像力が素晴らしいです。」
「そうかしら?」
「漫画家の才能がありますよ。」
「そうかしら?」
「アメリカでも、キツネの諺(ことわざ)ってあるんですか?」
「キツネ寝入りっていう言葉はあります。」
「キツネ寝入り?」
「日本で言う、狸寝入りと同じようなものです。英語で、フォックススリープって言うんです。」
「フォックススリープ。へ〜〜え、面白いなあ。」
研究所の裏の扉から、誰かが出てきた。視力のいい姉さんは、即座に反応した。
「あっ、誰か出てきましたよ。」
アニーも見ていた。
「女の人ですねえ。きっとあれは、白鳥洋子です。」
「しらとりようこ?」
「元、日本国立宇宙工学研究所の人です。」
「調べてあるんですか?」
「はい。」
白鳥洋子が、二人を見ていた。姉さんは、それに気付いた。
「あっ、彼女がこっちを見てるわ。」
アニーは慌てて指示した。
「描く振りしましょう!」
「はい!」
二人が絵を描き始めると、白鳥洋子は、研究所の隣の、透明の屋根の工場のような大きな建物のなかに入って行った。
姉さんは、アニーに質問した。
「怪しまれたかしら?」
「それは分かりません。」
「あの建物、何なんでしょうね?」
「屋根の内側にブラインドのようなものが見えるでしょう。」
「ええ。」
「あれで、光を調整してるんですよ。あれは、おそらく野菜栽培工場です。」
「野菜栽培工場?あそこで野菜を作っているんですか?」
「そうです。」
「何を?」
「さ〜〜あ?」
「単なるビニールハウスみたいなものではないんですね?」
「はい。全てをコンピュータで管理しているんです。」
「全て?」
「温度や水や肥料です。」
「そうなんですか。」
「温暖化対策ですね。日本のデリケートな野菜は、熱波と豪雨の荒れた自然では、もうとても無理です。育ちません。」
「そうですねえ。」
「これからは、ますますそうなります。」
「じゃあ、パイナップルとかの南国のを栽培すればいいんじゃないですか?青森リンゴの代わりに、青森パイナップルとか?」
「さ〜、どうでしょうねえ、それは?」
「駄目ですか?」
「日本人には、日本人の好みがありますから。」
「そっか〜〜。」
「お米だって、暑さには強いタイ米ってわけにはいかないでしょう。やっぱり、ジャポニカでないと。」
「そうですねえ。」
「お米は特別ですよ。栽培が難しいんです。」
「そうなんですか。タイ米は、チャーハンにすると美味しいんですけどねえ。」
「あっ、そうだ!ひょっとしたら、お米を作っているのかも知れないわ。」
「え?」
「あの工場で。」
「工場で、お米を?」
「はい。」
「アニーさん、いいことを思いついたわ!」
「何ですか?」
「じゃあ、模型飛行機で、上から見てみましょう。」
「それは、いいアイデアですねえ!他にも、いろいろ見えるし。」
二人は、意気揚々と模型飛行場に向かった。




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