きょん姉さんは、にやっと笑った。 「あの人、きっと私たちを、からかったんだわ。」 「そうかも知れませんね。」 「それ以外には、考えられませんよ。」 「そうですね。」 「随分と、暇な人だなあ。」 「なんだか、キツネにつままれたみたいだわ。」 「キツネにつままれた?」 「こういうとき、そう言いません?」 「言います、言います!ひょっとしたら、今の人、ほんとうにキツネだったのかも知れませんね?」 「まさか。」 「小峰さんが、水木しげるのアシスタントの話って、かなり昔の話ですものね。」 「今、ここにいるわけがありませんよね。」 「いたら、相当の歳ですよ。あんなに若いわけがありませんよ。」 「そうですそうです。あんなに若かったら、キツネの化け物です。」 「キツネの化け物?」 「キツネが今朝の番組を見たのかもしれませんよ。」 「まさか。」 二人は、顔を見合わせて笑った。 「アニーさんって、時々おかしなことを言いますねえ。」 「そうかしら?」 「想像力が素晴らしいです。」 「そうかしら?」 「漫画家の才能がありますよ。」 「そうかしら?」 「アメリカでも、キツネの諺(ことわざ)ってあるんですか?」 「キツネ寝入りっていう言葉はあります。」 「キツネ寝入り?」 「日本で言う、狸寝入りと同じようなものです。英語で、フォックススリープって言うんです。」 「フォックススリープ。へ〜〜え、面白いなあ。」 研究所の裏の扉から、誰かが出てきた。視力のいい姉さんは、即座に反応した。 「あっ、誰か出てきましたよ。」 アニーも見ていた。 「女の人ですねえ。きっとあれは、白鳥洋子です。」 「しらとりようこ?」 「元、日本国立宇宙工学研究所の人です。」 「調べてあるんですか?」 「はい。」 白鳥洋子が、二人を見ていた。姉さんは、それに気付いた。 「あっ、彼女がこっちを見てるわ。」 アニーは慌てて指示した。 「描く振りしましょう!」 「はい!」 二人が絵を描き始めると、白鳥洋子は、研究所の隣の、透明の屋根の工場のような大きな建物のなかに入って行った。 姉さんは、アニーに質問した。 「怪しまれたかしら?」 「それは分かりません。」 「あの建物、何なんでしょうね?」 「屋根の内側にブラインドのようなものが見えるでしょう。」 「ええ。」 「あれで、光を調整してるんですよ。あれは、おそらく野菜栽培工場です。」 「野菜栽培工場?あそこで野菜を作っているんですか?」 「そうです。」 「何を?」 「さ〜〜あ?」 「単なるビニールハウスみたいなものではないんですね?」 「はい。全てをコンピュータで管理しているんです。」 「全て?」 「温度や水や肥料です。」 「そうなんですか。」 「温暖化対策ですね。日本のデリケートな野菜は、熱波と豪雨の荒れた自然では、もうとても無理です。育ちません。」 「そうですねえ。」 「これからは、ますますそうなります。」 「じゃあ、パイナップルとかの南国のを栽培すればいいんじゃないですか?青森リンゴの代わりに、青森パイナップルとか?」 「さ〜、どうでしょうねえ、それは?」 「駄目ですか?」 「日本人には、日本人の好みがありますから。」 「そっか〜〜。」 「お米だって、暑さには強いタイ米ってわけにはいかないでしょう。やっぱり、ジャポニカでないと。」 「そうですねえ。」 「お米は特別ですよ。栽培が難しいんです。」 「そうなんですか。タイ米は、チャーハンにすると美味しいんですけどねえ。」 「あっ、そうだ!ひょっとしたら、お米を作っているのかも知れないわ。」 「え?」 「あの工場で。」 「工場で、お米を?」 「はい。」 「アニーさん、いいことを思いついたわ!」 「何ですか?」 「じゃあ、模型飛行機で、上から見てみましょう。」 「それは、いいアイデアですねえ!他にも、いろいろ見えるし。」 二人は、意気揚々と模型飛行場に向かった。
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