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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第90回   棺桶型クールベッド
昨日、高野山に徒歩でやってきた花岡実太は、天狗の昼寝公園で、ショーケン等の十人のグループの中にいた。リーダーの森という男が命じた。将棋人形の駒を作った男だった。
「みんな、休憩にしよう!」
十時半だった。みんなは、近くの腰掛けそうなところに座った。
ショーケンは、近くの大きな石に座った。アキラと花岡は、隣の大きな石に座った。ショーケンは、煙草を吸い始めた。アキラは、近くの自動販売機を見ていた。
「兄貴、なんか飲む?」
「コーラ。」
心根が優しいアキラは、花岡にも尋ねた。
「君は?」
「お金がないので、いいです。」
「もしあったら?」
「冷たい緑茶ですかねえ…」
アキラは自販機に走った。すぐに戻って来た。
「はい、兄貴!」
「はい、緑茶!」
ショーケンの次に花岡に渡した。
「えっ、いいんですか?」
「いいよ、緑茶くらい。」
「じゃあ、後で払います。」
「いいって!そんなことしたら怒るよ。」
「じゃあ、頂きます。ありがとうございます。」
ショーケンは、花岡に向かって喋りだした。
「花岡くん、どうしてここに?」
「勤めていたところが、急に倒産してしまって。探したんですけど、仕事がなくって、ここに来ました。」
「なんの仕事してたの?」
「工場です。流行の棺桶型クールベッドの。」
「あ〜〜、あれか、棺桶みたいなベッドの、テレビで宣伝してるやつ。」
「そうです。」
「でも、まだやってるよ、宣伝?」
「あれじゃあないんです。よく似た半額ほどの安いやつです。」
「で、どうしたの?」
「リコールで潰れたんです。」
「リコール?」
「途中で機能しなくなって、酸欠と熱中症で死んだ人が出てきて。不良品扱いになって、製造中止になってしまったんです。死んだ人への賠償金とかで潰れてしまったんです。」
「ああ、そうなの。」
「夏場は、休みなしで、よく売れてたんですけど。これから、外国にも売る予定だったんですけどねえ。とっても残念です。」
アキラが口を挟んだ。
「あれか〜、ぐっすりクールカプセルってやつ?」
「そうです。」
「あれ涼しいの?」
「はい。わたしも使ってましたけど、どこでも使えて省電力でとってもいいです。」
「バッテリーでも使えるの?」
「はい、使えます。」
「これから夏冬兼用のを作る計画だったらしんですけど、残念です。」
「そうなの、それは残念だねえ。」
「今年の夏は、特に売れました。」
「今年の夏は暑かったからねえ。」
「はい、熱中症で一万人以上も死んだといいますから。」
「そんなに死んだんだ〜。」
「下界は地獄でしたよ〜〜。あれじゃあ、エアコンがなかったら死にますよ〜〜。暑さが無いときには、ゲリラ豪雨だし。いったいどうなってるんでしょうね、日本は?」
「異常気象は世界中だよ。いよいよ、温暖化地獄だなあ〜。」
ショーケンは、しきりに頷いていた。
「で、ここに来たわけだ。」
「そうなんです。高野山は涼しいだろうと思って。それと、地球環境主権論を読んでて、人間村を思い出したんです。」
「保土ヶ谷龍次の本?」
「はい、保土ヶ谷先生の、地球環境主権論という本です。」
「どんな本なの?」
「えっ、読んだことないんですか?」
「まだ読んでない。持ってる?」
「帰ったらあります。読みますか?」
「じゃあ、ちょっと貸してくれる?」
「いいですよ。」
「ありがとう。」
「へ〜〜珍しいなあ。兄貴もそんなの読むんだあ〜?」
「うるさいな〜。」
三人は、おいしそうに、手にしている飲み物を飲み始めた。
アキラは、改めて少しびっくりしていた。
「今年は、熱中症で一万人も死んだのか〜!」
ショーケンがアキラに言った。
「なっ、温暖化ってのは、こういうことなんだよ、パイナップルやパパイヤが生るから楽しいという、のんきな問題じゃあないんだよ。」
「そうなんだねえ…」
アキラは花岡に尋ねた。
「下界は、まだ暑い?」
「下界は、まだまだ暑いです。」
「ここは?」
「さすがに高台の高野山は涼しいです、」
アキラは振り向いた。
「兄貴、やっぱここに来て良かったねえ!」
「そういう理由で来たんじゃないよ。」
「あっ。そっか。」
花岡は、理由を聞こうとしたが、止めた。



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