昨日、高野山に徒歩でやってきた花岡実太は、天狗の昼寝公園で、ショーケン等の十人のグループの中にいた。リーダーの森という男が命じた。将棋人形の駒を作った男だった。 「みんな、休憩にしよう!」 十時半だった。みんなは、近くの腰掛けそうなところに座った。 ショーケンは、近くの大きな石に座った。アキラと花岡は、隣の大きな石に座った。ショーケンは、煙草を吸い始めた。アキラは、近くの自動販売機を見ていた。 「兄貴、なんか飲む?」 「コーラ。」 心根が優しいアキラは、花岡にも尋ねた。 「君は?」 「お金がないので、いいです。」 「もしあったら?」 「冷たい緑茶ですかねえ…」 アキラは自販機に走った。すぐに戻って来た。 「はい、兄貴!」 「はい、緑茶!」 ショーケンの次に花岡に渡した。 「えっ、いいんですか?」 「いいよ、緑茶くらい。」 「じゃあ、後で払います。」 「いいって!そんなことしたら怒るよ。」 「じゃあ、頂きます。ありがとうございます。」 ショーケンは、花岡に向かって喋りだした。 「花岡くん、どうしてここに?」 「勤めていたところが、急に倒産してしまって。探したんですけど、仕事がなくって、ここに来ました。」 「なんの仕事してたの?」 「工場です。流行の棺桶型クールベッドの。」 「あ〜〜、あれか、棺桶みたいなベッドの、テレビで宣伝してるやつ。」 「そうです。」 「でも、まだやってるよ、宣伝?」 「あれじゃあないんです。よく似た半額ほどの安いやつです。」 「で、どうしたの?」 「リコールで潰れたんです。」 「リコール?」 「途中で機能しなくなって、酸欠と熱中症で死んだ人が出てきて。不良品扱いになって、製造中止になってしまったんです。死んだ人への賠償金とかで潰れてしまったんです。」 「ああ、そうなの。」 「夏場は、休みなしで、よく売れてたんですけど。これから、外国にも売る予定だったんですけどねえ。とっても残念です。」 アキラが口を挟んだ。 「あれか〜、ぐっすりクールカプセルってやつ?」 「そうです。」 「あれ涼しいの?」 「はい。わたしも使ってましたけど、どこでも使えて省電力でとってもいいです。」 「バッテリーでも使えるの?」 「はい、使えます。」 「これから夏冬兼用のを作る計画だったらしんですけど、残念です。」 「そうなの、それは残念だねえ。」 「今年の夏は、特に売れました。」 「今年の夏は暑かったからねえ。」 「はい、熱中症で一万人以上も死んだといいますから。」 「そんなに死んだんだ〜。」 「下界は地獄でしたよ〜〜。あれじゃあ、エアコンがなかったら死にますよ〜〜。暑さが無いときには、ゲリラ豪雨だし。いったいどうなってるんでしょうね、日本は?」 「異常気象は世界中だよ。いよいよ、温暖化地獄だなあ〜。」 ショーケンは、しきりに頷いていた。 「で、ここに来たわけだ。」 「そうなんです。高野山は涼しいだろうと思って。それと、地球環境主権論を読んでて、人間村を思い出したんです。」 「保土ヶ谷龍次の本?」 「はい、保土ヶ谷先生の、地球環境主権論という本です。」 「どんな本なの?」 「えっ、読んだことないんですか?」 「まだ読んでない。持ってる?」 「帰ったらあります。読みますか?」 「じゃあ、ちょっと貸してくれる?」 「いいですよ。」 「ありがとう。」 「へ〜〜珍しいなあ。兄貴もそんなの読むんだあ〜?」 「うるさいな〜。」 三人は、おいしそうに、手にしている飲み物を飲み始めた。 アキラは、改めて少しびっくりしていた。 「今年は、熱中症で一万人も死んだのか〜!」 ショーケンがアキラに言った。 「なっ、温暖化ってのは、こういうことなんだよ、パイナップルやパパイヤが生るから楽しいという、のんきな問題じゃあないんだよ。」 「そうなんだねえ…」 アキラは花岡に尋ねた。 「下界は、まだ暑い?」 「下界は、まだまだ暑いです。」 「ここは?」 「さすがに高台の高野山は涼しいです、」 アキラは振り向いた。 「兄貴、やっぱここに来て良かったねえ!」 「そういう理由で来たんじゃないよ。」 「あっ。そっか。」 花岡は、理由を聞こうとしたが、止めた。
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