「アルパカ牧場は、この模型飛行機の滑走路の向こうです。」 「これ、模型飛行機の滑走路なんですか?」 「はい。」 模型飛行機の滑走路は、幅三メートル長さ二十メートルほどだった。 「着陸が難しそうですねえ。」 「大丈夫です、自動着陸ですから。」 「自動着陸?」 「制限時間がくると、勝手に着陸するんです。」 「へ〜〜え。」 「着陸と離陸は危ないので、自動コントロールなんです。」 「それはいいですね。でも、どうして高野山にこんなものが?」 「この辺りの山の上だと、電線がないからぶつからないで飛べるんですよ。ですから、人気があるんです。下界だと、いろいろな障害物がありますからねえ。」 「な〜るほど。」 「高野山みたいに、広い高地は日本にはありませんからねえ。戦争中には、本当の飛行場もあったんですよ。」 「えっ、そうなんですか。」 「あそこで、ほら操縦してます!」 アニーは指差した。 「ほんとだ。」 よく見ると、遠くのほうで赤いプロペラの複葉機が飛んでいた。 「あんなに遠くまで、大丈夫ですか?」 「えっ?」 「電波が届かなくなるんじゃないですか?」 「電波が届かなくなったら、自分で戻ってくるんです。だから大丈夫です。」 「なるほど、でも木とかにぶつかったりはしないんですか?」 「ぶつかりそうになると、自分で避けてくれるんです。だから、誰でも操れます。」 「子供でもですか?」 「はい。」 「それはいいですねえ。でも飛ばすだけじゃあ、なんだかつまらないなあ。」 「空撮するんですよ。」 「えっ?」 「動画や静止画で空撮してくれるんです。五分で千円です。」 「それは素晴らしい。」 「インターネットからでも操縦できます。」 「えっ、インターネットからでも操縦できるんですか?」 「はい。」 「あの飛行機、どこで売ってるんですか?」 「あれはレンタルだけの専用飛行機で、どこにも売ってないんです。」 「あんなの売ってませんもんね、見たことがありません。いい商売ですね。高野山は、さすがに頭いいなあ〜。」 「弘法大師も、なかなか商売が上手かったらしいですよ。」 「そうなんですか。」 「あらゆる分野で、天才だったらしいです。」 「やっぱりアニーさんは、地元だから詳しいですねえ。」 「毎年帰省してますから。」 「ここにも来るんですか?」 「はい。ここには、なぜか来るんです。心が落ち着くんです。」 「そうですねえ。」 「ここの山の空気と、荘厳な雰囲気が好きなんです。」 姉さんは、周りを見渡した。 「弘法大師が選んだところだけあって、起伏の少ない不思議な高地ですねえ。」 高野町の真ん中に、背の高い高さ四十八強メートルの根本大塔が見えていた。 「よくあんな、馬鹿でかいもんを建てたもんだなあ。たいしたもんだ。」 「アルパカ牧場は、あのベンディングマシンの向こうです。」 「ベンディングマシン?」 「自動販売機です。」 「わたし、英語が苦手なんですよ〜。」 「ごめんなさい。アメリカで生活しているんもんで、ときどき日本語か英語か分からなくなってしまうんです。」 「そうなんですか。なんかいいなあ、そういうの。」 「そうなんですか?」 自販機には、ブラックコーラなるものがあった。 「なんだろう、ブラックコーラって?」 「甘くないコーラですよ。」 「ゼロカロリーの人口甘味料のコーラとは違うんですか?」 「まったく甘くないんです。コーラだけなんです。」 「ブラックコーヒーみたいなもんですか?」 「そうです。」 「アメリカでは売ってるんですか?」 「はい。」 姉さんは立ち止まり、そのコーラを睨んでいた。アニーが、ぽつんと言った。 「飲んでみたらどうですか?」 「じゃあ、早速飲みます!」 食べ物や飲み物に対して好奇心の旺盛な姉さんは、その缶入りのブラックコーラを、ぐいっと一口飲んだ。 「お〜〜〜〜、ワンダフル!」 「どうです?」 「大人の味です!」 「わたしは、ちょっと苦手です。」 「これが、コーラだけの味なんですか。信じられない味だわ。」 「目が覚めたでしょう?」 「はい!」 姉さんは、もう一口飲んだ。 「効く〜〜〜〜〜〜!」 姉さんは、目を丸くしていた。アニーは、にこっと笑っていた。
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