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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第87回   ブラックコーラ
「アルパカ牧場は、この模型飛行機の滑走路の向こうです。」
「これ、模型飛行機の滑走路なんですか?」
「はい。」
模型飛行機の滑走路は、幅三メートル長さ二十メートルほどだった。
「着陸が難しそうですねえ。」
「大丈夫です、自動着陸ですから。」
「自動着陸?」
「制限時間がくると、勝手に着陸するんです。」
「へ〜〜え。」
「着陸と離陸は危ないので、自動コントロールなんです。」
「それはいいですね。でも、どうして高野山にこんなものが?」
「この辺りの山の上だと、電線がないからぶつからないで飛べるんですよ。ですから、人気があるんです。下界だと、いろいろな障害物がありますからねえ。」
「な〜るほど。」
「高野山みたいに、広い高地は日本にはありませんからねえ。戦争中には、本当の飛行場もあったんですよ。」
「えっ、そうなんですか。」
「あそこで、ほら操縦してます!」
アニーは指差した。
「ほんとだ。」
よく見ると、遠くのほうで赤いプロペラの複葉機が飛んでいた。
「あんなに遠くまで、大丈夫ですか?」
「えっ?」
「電波が届かなくなるんじゃないですか?」
「電波が届かなくなったら、自分で戻ってくるんです。だから大丈夫です。」
「なるほど、でも木とかにぶつかったりはしないんですか?」
「ぶつかりそうになると、自分で避けてくれるんです。だから、誰でも操れます。」
「子供でもですか?」
「はい。」
「それはいいですねえ。でも飛ばすだけじゃあ、なんだかつまらないなあ。」
「空撮するんですよ。」
「えっ?」
「動画や静止画で空撮してくれるんです。五分で千円です。」
「それは素晴らしい。」
「インターネットからでも操縦できます。」
「えっ、インターネットからでも操縦できるんですか?」
「はい。」
「あの飛行機、どこで売ってるんですか?」
「あれはレンタルだけの専用飛行機で、どこにも売ってないんです。」
「あんなの売ってませんもんね、見たことがありません。いい商売ですね。高野山は、さすがに頭いいなあ〜。」
「弘法大師も、なかなか商売が上手かったらしいですよ。」
「そうなんですか。」
「あらゆる分野で、天才だったらしいです。」
「やっぱりアニーさんは、地元だから詳しいですねえ。」
「毎年帰省してますから。」
「ここにも来るんですか?」
「はい。ここには、なぜか来るんです。心が落ち着くんです。」
「そうですねえ。」
「ここの山の空気と、荘厳な雰囲気が好きなんです。」
姉さんは、周りを見渡した。
「弘法大師が選んだところだけあって、起伏の少ない不思議な高地ですねえ。」
高野町の真ん中に、背の高い高さ四十八強メートルの根本大塔が見えていた。
「よくあんな、馬鹿でかいもんを建てたもんだなあ。たいしたもんだ。」
「アルパカ牧場は、あのベンディングマシンの向こうです。」
「ベンディングマシン?」
「自動販売機です。」
「わたし、英語が苦手なんですよ〜。」
「ごめんなさい。アメリカで生活しているんもんで、ときどき日本語か英語か分からなくなってしまうんです。」
「そうなんですか。なんかいいなあ、そういうの。」
「そうなんですか?」
自販機には、ブラックコーラなるものがあった。
「なんだろう、ブラックコーラって?」
「甘くないコーラですよ。」
「ゼロカロリーの人口甘味料のコーラとは違うんですか?」
「まったく甘くないんです。コーラだけなんです。」
「ブラックコーヒーみたいなもんですか?」
「そうです。」
「アメリカでは売ってるんですか?」
「はい。」
姉さんは立ち止まり、そのコーラを睨んでいた。アニーが、ぽつんと言った。
「飲んでみたらどうですか?」
「じゃあ、早速飲みます!」
食べ物や飲み物に対して好奇心の旺盛な姉さんは、その缶入りのブラックコーラを、ぐいっと一口飲んだ。
「お〜〜〜〜、ワンダフル!」
「どうです?」
「大人の味です!」
「わたしは、ちょっと苦手です。」
「これが、コーラだけの味なんですか。信じられない味だわ。」
「目が覚めたでしょう?」
「はい!」
姉さんは、もう一口飲んだ。
「効く〜〜〜〜〜〜!」
姉さんは、目を丸くしていた。アニーは、にこっと笑っていた。



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