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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第83回   地球環境主権論
またしても、時は容赦なく前に走っていた。そして、大気を容赦なく暖める二酸化炭素を蹴散らしながら、風小僧たちが競いながら飛んでいた。
「風小僧は元気がいいなあ〜。」
姉さんは雲を見ていた。
「えっ?」
「風小僧は、よくもあんな大きな雲を動かすなあと思って…」
アニーは返事に躊躇した。自分の世界にはない会話の内容だった。
「葛城さんって、メルヘンチックですねえ。」
「メルヘンチックですかあ?」
「ときどき不思議なことを言いますねえ。」
「そうかなあ?以前に、保土ヶ谷龍次に、コケティッシュって言われたことがあります。」
「ここの保土ヶ谷龍次ですか?」
「はい。以前、仕事の上司だったんです。」
「えっ、そうなんですか。」
アニーは多少驚いていた。姉さんは、懐かしそうに昔を思い出していた。
「コケティッシュって言われて、わたし新しいティッシュのことだと思って、彼を笑わせたんです。」
「それは面白いです。」
「後でパソコンで調べたら、フランス語で、女っぽいって出てました。わたしって。女っぽいかしら?」
「う〜〜〜ん、ときどき女っぽいというか、少女っぽいときがありますね。」
「それならピンポンだわ。」
「ピンポンですか。」
「変ですか?」
「いいえ、そういうところが、きっとコケティッシュなんですね。」
「え〜〜、そうなんですか?」
「葛城さんは、ときどき少女になります。」
「御伽噺が好きなんです。」
「きっと、心が純真なんですね。」
「そうかなあ?
ガソリン車が、二酸化炭素を吐き出しながら通り過ぎて行った。
姉さんが溜息をついた。
「毎日、二酸化炭素が増える一方だわ。」
アニーが相槌を打った。
「そうですねえ。」
小さなメルヘンチックな橋を渡ると、白い建物が見えた。
「あれが、人間村の食堂です。」
「…食堂ですか。」
姉さんの鼻が、ぴくっと動いた。
「あっ、ほんとだ。食堂の匂いだ。」
「えっ、そうなの?」
「これは間違いなく、正真正銘の食堂の匂いです!」
「凄い鼻ですねえ。」
「帰りは、あそこで食べましょうか?」
アニー、とんでもないフレーズに驚いた。
「えっ、駄目ですよ〜、そんな〜!」
アニーは思わず笑っていた。が、姉さんは本気だった。
食堂の道路を隔てた向かい側の敷地には、ドーム型の建物がいくつも建っていた。大きな鉄製の門があって、門柱には、<人間村>の旗が風に揺れていた。奥の木製の看板には、
<われらニート革命軍、われらは地球環境のために大地に引きこもる!>
と書かれていた。
アニーは立ち止まり、村を見ていた。カメラ付双眼鏡を持っていた。
「彼らの主張は極端だけど、当たっているわ。このままでは、地球は滅びるわ。」
「そうですね、もっと人間が自然を大切にしないと、きっと滅びますね。」
アニーは、カメラ付双眼鏡で数枚撮った。
「保土ヶ谷龍次の主張は、プロパガンダなんです。」
「はっ?」
「極端を言うことで、問題点を提起してるんですよ。革命家が、よく使う手法です。」
「なるほど。」
「でも、最近の温暖化は、そうでもないみたいですけど。」
「彼らの主張のようになっていますよ。」
「やはり、五十年後には、地球は滅びるかも知れませんねえ。」
「50年後ですか?」
「保土ヶ谷龍次の、地球環境主権論に書いてありました。」
「そうですねえ。」
「あんまり見てると怪しまれるから行きましょう。」


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