またしても、時は容赦なく前に走っていた。そして、大気を容赦なく暖める二酸化炭素を蹴散らしながら、風小僧たちが競いながら飛んでいた。 「風小僧は元気がいいなあ〜。」 姉さんは雲を見ていた。 「えっ?」 「風小僧は、よくもあんな大きな雲を動かすなあと思って…」 アニーは返事に躊躇した。自分の世界にはない会話の内容だった。 「葛城さんって、メルヘンチックですねえ。」 「メルヘンチックですかあ?」 「ときどき不思議なことを言いますねえ。」 「そうかなあ?以前に、保土ヶ谷龍次に、コケティッシュって言われたことがあります。」 「ここの保土ヶ谷龍次ですか?」 「はい。以前、仕事の上司だったんです。」 「えっ、そうなんですか。」 アニーは多少驚いていた。姉さんは、懐かしそうに昔を思い出していた。 「コケティッシュって言われて、わたし新しいティッシュのことだと思って、彼を笑わせたんです。」 「それは面白いです。」 「後でパソコンで調べたら、フランス語で、女っぽいって出てました。わたしって。女っぽいかしら?」 「う〜〜〜ん、ときどき女っぽいというか、少女っぽいときがありますね。」 「それならピンポンだわ。」 「ピンポンですか。」 「変ですか?」 「いいえ、そういうところが、きっとコケティッシュなんですね。」 「え〜〜、そうなんですか?」 「葛城さんは、ときどき少女になります。」 「御伽噺が好きなんです。」 「きっと、心が純真なんですね。」 「そうかなあ? ガソリン車が、二酸化炭素を吐き出しながら通り過ぎて行った。 姉さんが溜息をついた。 「毎日、二酸化炭素が増える一方だわ。」 アニーが相槌を打った。 「そうですねえ。」 小さなメルヘンチックな橋を渡ると、白い建物が見えた。 「あれが、人間村の食堂です。」 「…食堂ですか。」 姉さんの鼻が、ぴくっと動いた。 「あっ、ほんとだ。食堂の匂いだ。」 「えっ、そうなの?」 「これは間違いなく、正真正銘の食堂の匂いです!」 「凄い鼻ですねえ。」 「帰りは、あそこで食べましょうか?」 アニー、とんでもないフレーズに驚いた。 「えっ、駄目ですよ〜、そんな〜!」 アニーは思わず笑っていた。が、姉さんは本気だった。 食堂の道路を隔てた向かい側の敷地には、ドーム型の建物がいくつも建っていた。大きな鉄製の門があって、門柱には、<人間村>の旗が風に揺れていた。奥の木製の看板には、 <われらニート革命軍、われらは地球環境のために大地に引きこもる!> と書かれていた。 アニーは立ち止まり、村を見ていた。カメラ付双眼鏡を持っていた。 「彼らの主張は極端だけど、当たっているわ。このままでは、地球は滅びるわ。」 「そうですね、もっと人間が自然を大切にしないと、きっと滅びますね。」 アニーは、カメラ付双眼鏡で数枚撮った。 「保土ヶ谷龍次の主張は、プロパガンダなんです。」 「はっ?」 「極端を言うことで、問題点を提起してるんですよ。革命家が、よく使う手法です。」 「なるほど。」 「でも、最近の温暖化は、そうでもないみたいですけど。」 「彼らの主張のようになっていますよ。」 「やはり、五十年後には、地球は滅びるかも知れませんねえ。」 「50年後ですか?」 「保土ヶ谷龍次の、地球環境主権論に書いてありました。」 「そうですねえ。」 「あんまり見てると怪しまれるから行きましょう。」
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