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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第81回   ニワトリさん
熊さんは、卵を入れるダンボールの箱を持って、にこにこしながら戻って来た。
「今日は、五つしか余らなかったんだ。だから、トマト二個と交換してくれない?」
「二個でいいんですか?」
「二個でいいよ、トマトは高いから。」
「三個でもいいんですよ。」
「二個でいいよ。」
「じゃあ、選んでください。」
熊さんは、小さなアルミのリアカーに積んである十個ほどのトマトの中から、二個選んで取った。
「じゃあ、これと、これね。」
「ありがとうございます。ニワトリはどうして、卵を毎日産むんですか?」
「それはねえ、人間がつくったんだよ。」
「え〜〜〜!?」
「昔の昔のニワトリはね、毎日は産まなかったんだよ。人間はね、卵を食べるために、毎日産むようなニワトリを育てて作ったんだよ。」
「え〜〜、そうなんですかあ〜。」
「人間って、ずるいでしょう。」
「ほんと、ずるいわあ〜。」
「でもねえ、卵は人間が食べないと腐ってしまうでしょう。だから食べるの。」
「ヒヨコにはならないの?」
「ヒヨコにはならないんだよ。」
「ふふん。じゃあ、ニワトリはお母さんにはならないのね。」
「そういうこと。」
「ニワトリは、人間のために卵を産んでいるのね。」
「そういうことだね。」
「そうなんだあ〜。ニワトリは損してるのね、かわいそうだわ〜。」
「損ばかりじゃないよ。人間がニワトリを他の動物から守って、餌をやってるんだよ。」
「ああ、そういうことですか。」
「助け合って生きているんだよ。」
「人間とニワトリは、仲がいいんですね。」
「そういうことだね。お母さんは、どう?」
「とっても元気です。」
「それは良かった。」
「今日は、病院から先生が来るんです。」
「ああ、そうなの。あっ、そうだ!お母さん、乾燥肌かな?」
「かんそうはだって、何ですか?」
「顔とか、クリームつけてる?」
「はい、ときどきつけてます。」
「あ〜〜、そう!」
熊さんは、自分のドームハウスに早足で入って行った。そして直ぐに戻って来た。
「このクリーム、お母さんに、あげて。」
「これ、いただいてもいいんですか?」
「人にもらったんだけど、女性用だから。」
「わ〜〜、お母さん、とっても喜ぶわ〜。」
「そう、それは良かった!」
真由美は、頭を下げた。「熊さん、どうもありがとう!」
「今日は、トマトは売れたのかな?」
「はい。」
熊さんは、アルミのリアカーをしげしげと眺めた。
「このリアカー、どうしたの?」
「もんちゃんにもらったんです。」
「もんちゃんって、紋次郎のこと?」
「そうです。」
熊さんは、紋次郎を見た。
「こんなの、どこにあったの?」
「作業所の倉庫にしまってあったんです。自転車用のリアカーなんです。龍次さんに尋ねたら、誰も使ってないから持って行きなさいって言われたんです。」
「ああ、そう。」
熊さんは、リアカーをちょっと引いてみた。
「これ、軽くていいねえ。」
真由美が答えた。
「はい、とってもいいです。」
「紋次郎、おまえ気が利くなあ〜。」
紋次郎は黙っていた。
「熊さん、もう少し近くに行って、ニワトリを見てもいいですか?」
「いいよ。」
熊さんと紋次郎は、作業を再開した。ニワトリたちは、金網の張られた鳥小屋のなかで、忙しそうに餌を食べていた。真由美は小さな声で言った。
「ニワトリさん、毎日たまごを産んで、どうもありがとう。」
ニワトリたちは、ときどき真由美を見ながらも忙しそうに餌を食べていた。
「やっぱり、人間にだまされそうな顔をしてるわ。」
真由美は、五分ほど見ていた。ニワトリに手を振った。
「またね、ニワトリさん。」
熊さんと紋次郎は、忙しそうに鳥小屋を作っていた。
「熊さん、また来ます。」
「おっ、もういいのかい?」
「はい。」
「霧が濃いから、気をつけて帰るんだよ。」
「はい!」
紋次郎が手を上げた。
「またね〜、真由美ちゃ〜〜ん!」
「またね〜、もんちゃん!頑張ってねえ〜!」
真由美は、「熊さん、ありがと〜う!」と言いながら帰って行った。



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