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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第77回   ジャメヴュ
朝食が終わると、ポンココリンと五十嵐親子は、一緒にドームハウスを出て行った。紋次郎は、ポンポコリンの部屋に残っていた。勿論そのことは、五十嵐親子は知らなかった。
人間村全体に、霧がかかっていた。正男は驚いた。
「わ〜〜、真っ白だ〜〜!?」
母親の礼子が教えた。
「霧よ。」
「きりって、なあに?」
正男は、霧を見るのは初めてだった。
今度は、ポンポコリンが教えた。
「霧はねえ、雲と同じものなのよ。」
「じゃあ、雲の中を歩いているんだ〜。」
「そう、雲の中を歩いているのよ。」
「わ〜〜〜、すごいなあ〜!忍者みたいだなあ〜。」
前方から、忍者がどろんどろんと現れた。
「われこそは、霧隠才蔵(きりがくれ さいぞう)なり〜!」
「わ〜〜、忍者だあ〜!」
よく見ると、龍次だった。両手で印を結んでいた。
「おはよう。」
「なあんだ、おじさんか!」
「正男君、おはよう!」
正男は頭を下げた。
「おはようございます!」
礼子も頭を下げた。
「おはようございます。」
ポンポコリンも「おはよう!」と言った。
「よく眠れましたか?」
「はい、おかげさまで。」
「それはよかった。じゃあ、行きましょう!」
「おじさん、どこに行くの?」
「お仕事だよ。」
「ぼくも行きたいなあ〜。」
母親の礼子が諫(いさ)めた。
「そんなこと言っちゃあ駄目でしょう!」
龍次は、何かを考え込んでいた。
八月から十二月頃の高野山は、朝霧の多い時期であった。幽玄な雰囲気が漂っていた。
「朝霧は晴天の印です。」
龍次たちは、集会所に向かった。龍次の隣を歩いているのは、ポンポコリンだった。
「ときどき、自分以外は景色に見えてくるんだよ。どういうことかねえ?」
「人間や動物もですか?」
「そういうこと。」
「それは変ですねえ、感覚ですか?」
「そう、感覚…、こういうのを超感覚って言うのかなあ?」
「さあ〜〜ぁ?」
ポンポコリンは、首をひねった。
「懐かしいとかという感じですか?」
「そうじゃないなあ、逆だね。新鮮な景色に感じるんだよ。」
「新鮮な景色…」
「そう、初めて見る景色に。」
「デジャヴュの反対じゃないんですか?」
「そんなのあるの?」
「ジャメヴュとか、ジャメブーって言うんです。」
「ジャメヴュ?」
「見慣れたはずのものが、未知のものに感じられるんです。」
「あ〜〜、そう。」


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