次の日の新しい朝が、ほいほいとやって来たやって来た。 聖地である高野山(こうやさん)の朝は、いつものように排気ガスも騒音もない、交通事故も争いもない平和な朝だった〜、朝だった〜。霧がかかっていたが、いつものように小鳥たちがさえずり合って、ピーチクパーチクと何やら賑やかに挨拶をしていた。 「姉さん、新しい姉さんに生まれ変わりましたか?」 「ああ、生まれ変わったよ〜〜。見てごらんよ、わたしの瞳を!」 「わ〜〜、綺麗な瞳だなあ〜!」 アニーは、朝食を食べながらテレビのニュースを見ていた。日本の探査衛星<はやぶさ>の帰還のニュースだった。姉さんも、テーブルに着席すると、熱心に見出した。 「凄いねえ〜、九年もかけて地球に自力で戻ってきたのかよ〜〜!」 アニーは、感激していた。 「凄いですねえ、日本のハイテク技術は。」 「大した根性だなあ〜。」 「何度も何度もトラブって、ちゃんと仕事をして戻って来たんだわ〜。凄いわ〜〜。」 テレビでは、<はやぶさ>の大気圏突入の映像を流していた。ほんとうなら、<はやぶさ>本体ごと帰還するはずだったのに、故障で仕事を終えたカプセルのみのパラシュート落下になった。<はやぶさ>本体は、子供を産み役目を終えた親のように、カプセルを守り大気圏で真っ赤になって燃え尽きて落ちて行った。そして、カプセルだけは、無事に産み落とされた。 姉さんは、突然と泣き出した。 「わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」 それはそれは、長い鳴き声だった。 アニーも、しくしくと泣き出した。 「立派だわ〜〜!」 福之助は、笑って二人を見ていた。 「二人とも、オーバーですよ。機械ですよ、あれは。ロボットですよ。」 姉さんは、その言葉に泣き止んだ。 「そんなことは分かっているよ。」 「人間は、泣いたり怒ったり、忙しいですねえ〜。」 「おまえとは、だいぶ違うな〜と思ってさ〜。」 「なんですって?」 「雲泥の差って言うかさあ。」 「雲泥の差?」 「おまえは泥で、あの子は、雲だよ。」 「なんですって!?」 ドアチャイムが鳴った。 「わたしが出るよ。あんたは徹夜で疲れているだろうから、泥のように寝てていいよ。」 「なんですって!?」 姉さんは、ドアの前から答えた。 「どなたですか〜?」 「トマトはいりませんか〜〜?」 「あっ、真由美ちゃんだ!」 ドアを開けると、真由美ちゃんが立っていた。霧で景色がぼやけていた。 「わ〜〜、凄い霧だあ!」 「トマトはいりませんか?一つ百円です。」 「そうねえ、じゃあ六つちょうだい。」 「はい。」 真由美は、小さなリアカーに積んであるトマトに案内した。 「どれがいいですか?」 「そうねえ…、これと、これと、これと…」 「それでいいですか?」 「うん、いいよ。」 真由美は、紙の袋に入れて、姉さんに渡した。 「はい、どうぞ。」 「ちょっと待って、お金持ってくるから。」 「はい。」 姉さんは、直ぐに持ってきて、真由美に手渡した。 「はい。」 「どうもありがとうございま〜す!」 「そのリアカー、可愛いねえ〜。」 「もんちゃんにもらったんです。」 「もんちゃん?」 「もんじろうというロボットなんです。」 「紋次郎から?」 「はい。」 「…まだ、売りに行くの?」 「はい。近くの人に。」 「頑張ってね。」 「はい。」 アニーも出てきた。 「真由美ちゃん、おはよう。」 真由美は丁寧に頭を下げた。 「おはようございます。」 「偉いわねえ、頑張ってね。」 「はい。」 真由美は、リアカーを嬉しそうに引いて、霧の中をマンションの方に向かって行った。姉さんは、少し心配そうに見ていた。真由美が後ろを見たので、姉さんは手を振って答えた。 「クルマに気をつけるのよ〜〜!」 「は〜〜〜い!」
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