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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第75回   はやぶさ帰還!
次の日の新しい朝が、ほいほいとやって来たやって来た。
聖地である高野山(こうやさん)の朝は、いつものように排気ガスも騒音もない、交通事故も争いもない平和な朝だった〜、朝だった〜。霧がかかっていたが、いつものように小鳥たちがさえずり合って、ピーチクパーチクと何やら賑やかに挨拶をしていた。
「姉さん、新しい姉さんに生まれ変わりましたか?」
「ああ、生まれ変わったよ〜〜。見てごらんよ、わたしの瞳を!」
「わ〜〜、綺麗な瞳だなあ〜!」
アニーは、朝食を食べながらテレビのニュースを見ていた。日本の探査衛星<はやぶさ>の帰還のニュースだった。姉さんも、テーブルに着席すると、熱心に見出した。
「凄いねえ〜、九年もかけて地球に自力で戻ってきたのかよ〜〜!」
アニーは、感激していた。
「凄いですねえ、日本のハイテク技術は。」
「大した根性だなあ〜。」
「何度も何度もトラブって、ちゃんと仕事をして戻って来たんだわ〜。凄いわ〜〜。」
テレビでは、<はやぶさ>の大気圏突入の映像を流していた。ほんとうなら、<はやぶさ>本体ごと帰還するはずだったのに、故障で仕事を終えたカプセルのみのパラシュート落下になった。<はやぶさ>本体は、子供を産み役目を終えた親のように、カプセルを守り大気圏で真っ赤になって燃え尽きて落ちて行った。そして、カプセルだけは、無事に産み落とされた。
姉さんは、突然と泣き出した。
「わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」
それはそれは、長い鳴き声だった。
アニーも、しくしくと泣き出した。
「立派だわ〜〜!」
福之助は、笑って二人を見ていた。
「二人とも、オーバーですよ。機械ですよ、あれは。ロボットですよ。」
姉さんは、その言葉に泣き止んだ。
「そんなことは分かっているよ。」
「人間は、泣いたり怒ったり、忙しいですねえ〜。」
「おまえとは、だいぶ違うな〜と思ってさ〜。」
「なんですって?」
「雲泥の差って言うかさあ。」
「雲泥の差?」
「おまえは泥で、あの子は、雲だよ。」
「なんですって!?」
ドアチャイムが鳴った。
「わたしが出るよ。あんたは徹夜で疲れているだろうから、泥のように寝てていいよ。」
「なんですって!?」
姉さんは、ドアの前から答えた。
「どなたですか〜?」
「トマトはいりませんか〜〜?」
「あっ、真由美ちゃんだ!」
ドアを開けると、真由美ちゃんが立っていた。霧で景色がぼやけていた。
「わ〜〜、凄い霧だあ!」
「トマトはいりませんか?一つ百円です。」
「そうねえ、じゃあ六つちょうだい。」
「はい。」
真由美は、小さなリアカーに積んであるトマトに案内した。
「どれがいいですか?」
「そうねえ…、これと、これと、これと…」
「それでいいですか?」
「うん、いいよ。」
真由美は、紙の袋に入れて、姉さんに渡した。
「はい、どうぞ。」
「ちょっと待って、お金持ってくるから。」
「はい。」
姉さんは、直ぐに持ってきて、真由美に手渡した。
「はい。」
「どうもありがとうございま〜す!」
「そのリアカー、可愛いねえ〜。」
「もんちゃんにもらったんです。」
「もんちゃん?」
「もんじろうというロボットなんです。」
「紋次郎から?」
「はい。」
「…まだ、売りに行くの?」
「はい。近くの人に。」
「頑張ってね。」
「はい。」
アニーも出てきた。
「真由美ちゃん、おはよう。」
真由美は丁寧に頭を下げた。
「おはようございます。」
「偉いわねえ、頑張ってね。」
「はい。」
真由美は、リアカーを嬉しそうに引いて、霧の中をマンションの方に向かって行った。姉さんは、少し心配そうに見ていた。真由美が後ろを見たので、姉さんは手を振って答えた。
「クルマに気をつけるのよ〜〜!」
「は〜〜〜い!」



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