高野山病院の向かい側は、コーポ入江というマンションがあった。マンションの壁に塗られた風発光塗料の絵が風で光っていた。 そこの住民と思われる婦人が二人、何やら言い争いをしていた。 「だから、夜にゴミを出さないでください。動物があさりに来ますから。」 「分かりました!」 猫が、二人を見ていた。 高野山病院から天軸山公園までの道の両側は、コスモスが植えられていた。花を照らすための照明が、無数のコスモスの花の淡いピンク色を映していた。少し強い風で揺れていた。 「夜のコスモスも、幻想的でいいもんだなあ〜。」 熊さんは、思わず深呼吸をした。 「下界の空気と違って、やっぱり高原の空気は爽やかだなあ〜。」 熊さんは、家路を急いでいた。 「なんだか今日は、色んなことがあったなあ〜。」 小動物が道を横切って行った。 「さっきの女、おかしなことばっかり言ってたけど、キツネでも憑いたのかなあ?」 コスモスの花壇が続く道が終わったところは、高野山ハイテク住宅展示場になっていた。道の近くには、<いつでもサンサン住宅>があって、新たな朝に備え、徐々に回転して、大きな窓のある面を東向きに向けつつあった。太陽光エネルギーを電気に変える屋根は、夜には小さな掃除ロボットが、屋根を器用に掃除していた。 熊さんは、立ち止まり、ロボットを見ていた。 「器用だなあ〜。」 熊さんは、職人の目で見ていた。 屋根の両サイドには、鳥避けの大鷲のロボットが立っていた。 「高野山は、ハイテクの町だなあ〜。」 熊さんは、感心しながら人間村に向かって歩き出した。 「ってことは、高野山の宗教は、ハイテクの心ってことか。物がハイテクになるように、心もハイテクにならないといかんなあ…」 熊さんは、いつになく妙なことを考えていた。 「高野山ってところは、妙なことを考えさせるところだなあ。」 熊さんは、高野山の不思議な雰囲気が、そうさせるているんだなあと思った。どこかで、鳥がさえずっていた。 「何だ、今頃?」 熊さんは、周りを見回した。 「不思議なところだなあ〜。やっぱり、世界遺産の町は違うわ。」 熊さんが、人間村に辿り着いたとき、高野四郎の鐘が、午後十一時を告げて鳴り響いていた。門の扉は閉まっていたので、熊さんは隣の小さなドアから、開錠番号を押して入った。 「あ〜あ、みんな、寝ちゃってら。」 夜の帳が人間村を穏やかに包んでいた。虫が鳴いていた。 「虫たちは、いったい、いつ寝てるんだ?」 熊さんは、自分のドームハウスに向かって歩きながら、娘と一緒に交通事故で死んだ妻のことを思い出していた。 「ここに連れてきてやりたかったなあ…」
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