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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第68回   お不動さん
ポンポコリンは、ワープロのチャット機能を使って、電磁波を介して、紋次郎とチャットをしていた。
突然、どっかんと凄い音がした。建物が揺れた。ポンポコリンは立ち上がった。
「何、今の!?」
紋次郎は、手話で答えた。カミナリです。
「カミナリ…」
正男の声が聞こえた。
「母ちゃん!」
「何かあったのかしら?」
ポンポコリンは、部屋を出て、隣の部屋の引き戸を開けた。
「どうしたの、正男くん?」
正男は、母親の礼子を起こそうとしていた。
「母ちゃん!」
ポンポコリンは急いで、礼子の元に歩み寄った。
「礼子さん!」
礼子は起きなかった。
「礼子さん!」
礼子は、ゆっくりと目を開けた。
「どうしたんですか?」
「だいじょうぶですか?」
「はい。だいじょうぶです。」
正男は泣きそうな顔になっていた。
「母ちゃん、怖いよ〜。」
「どうしたの、正男?」
「何かが落っこちたんだよ〜!」
「何かって?」
ポンポコリンが説明した。
「今、近くにカミナリが落ちたみたいなんです。」
「え〜〜、そうなんですか!?」
ポンポコリンは呆れて笑い顔で尋ねた。
「知らなかったんですか?」
「はい。」
「じゃあ、よほどぐっすりと寝てらしたんですねえ。」
「はい、今日は疲れてしまって。」
「なあんだ、そうでしたか。」
「母ちゃん、聞こえなかったの〜?」
「ごめんね、正男。」
ポンポコリンは安心した。
「正男くん、大丈夫よ。ここには、カミナリは落ちないから。」
「ほんと?」
「ほんとよ。」
「どうして落ちないの?」
「避雷針っていうのがあるの。ここに落ちないで、そこに落ちるの。」
「どんなの?」
「見たい?」
「うん。」
「じゃあ、見せてあげるから、お姉さんについてらっしゃい。」
「うん。」
ポンポコリンは、正男と一緒に、ドームハウスの外に出た。そして、近くに建ってる避雷針を指差そうとした。天軸山の頂の不動明王が、剣を光らせ燃えていた。
「お姉ちゃん、なあにあれ!?」
彼女は、不動明王の剣が、避雷針であることを知っていた。
「あそこに落ちたんだわ。」
「あれがそうなの?」
「そうよ。お不動さんって言うの。」
「おふどうさん。カミナリは、あそこに落ちたの?」
「あそこに落ちたのよ。カミナリは、お不動さんに落ちて、ここには落ちないの。」
「じゃあ、おふどうさんが、守っているんだね。」
「そうよ、ここにカミナリが落ちないように守っているの。」
正男は、不動明王を不思議なものを見るように、目を凝らして見ていた。
「あんなに燃えてて、だいじょうぶなの?火事にはならないの?」
「大丈夫よ、あれは本物の火じゃなくって、電気だから、火事にはならないの。」
「でんきは、火事にならないの?」
「そうよ。」
「ふ〜〜ん。」
「さあ、お不動さんに、手を合わせましょう。」
彼女は、手を合わせて礼を言った。
「お不動さん、どうもありがとう!」
正男も、真似をして礼を言った。
「おふどうさん、どうもありがとう!」
風はあったが、雨は降っていなかった。彼女は、空を見回した。
「変ねえ、ちっとも雲なんかないのに?」
「どうしたの、お姉さん?」
「なんでもない、さあ帰ろう。」
「うん。」
二人は、ドームハウスに戻って行った。



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