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作品名:高野山 人間村 作者:毬藻

第64回   ソクラテスの妻
ウメさんは、パソコンの電源を落とした。
「わたし、門のところで待ってましょうか?」
「そうね…」
「ちょうど、外に出て、頭を冷やそうと思ってたんです。」
「そ〜お、じゃあ、おねがいします。」
ウメさんは出て行った。直後に、龍次が入って来た。
「ウメさん、どこに行ったの?」
「門です。長谷川さんの夫を迎えに。」
「長谷川さん?」
「あそこに寝てる方です。」
龍次は、ゲストルームを覗いた。
「あ〜〜、あの人か、よっぱらいの人って。」
「はい。」
「みっちゃんも大変だねえ。」
「はい。」
「後はいいよ、僕がやるから。」
「いいえ、大丈夫です。あの人の旦那さんが来るまで。気がすまないんです。」
「ああ、そうなの。みっちゃん、ひょっとして、A型?」
「そうです。」
「わたし、O型。」
「じゃあ、気が合いますね。」
「そうなの?」
「龍次さん、白髪が増えたんじゃない?」
「そう?」
「龍次さん、ひょっとして、アラ還?」
「なんで僕が、嵐寛寿郎なんだよ?」
「あらしかんじゅうろう?」
「ヨコタンも同じようなこと言ってたなあ。」
「あらしかんじゅうろうって、誰ですか?」
「知らないの?」
「はい。ひょっとしたら、歌舞伎の方ですか?」
「違うよ。じゃあ、長谷川一夫って知ってる?」
「長谷川かずお?」
「やっぱり知らないか。…、あの人、長谷川さんだよね?」
「そうです。」
「ひょっとしたら…」
「ひょっとしたら?」
「高野山テクロロジー研究所の長谷川さんの奥さんかなあ…」
「そういう人、いるんですか?」
「高野山テクノロジー研究所の所長だよ。」
「そうなんですか。」
「あの人だったら、変わった乗り物に乗ってくるから、すぐ分かるよ。」
「変わった乗り物って?」
「アシスト電気自動車。自転車みたいに漕ぐ自動車。」
「漕ぐ?」
「ペダルがアクセルになってるの。」
「へ〜〜〜、どうしてそんなことをしてるんですか?」
「運動のためだよ。」
「なるほどね。」
「そうだ、僕も迎えに行こう。」
龍次は出て行った。
ウメさんは、門の扉を開け、長谷川さんの夫を持っていた。
「やあ、ウメさん、ご苦労さん!」
「あっ、保土ヶ谷さん。」
「まだ来ない?」
「はい。」
「あっ、あれかな?」
ゴルフ場のカートのような自動車が、こっちに向かってやってくるのが見えた。運転席で、男がハンドルを握って、ペダルを漕いでいるのが見えた。
「やっぱり、長谷川さんだ。」
ウメさんも、長谷川さんを知っていた。
「あの人、長谷川さんの奥さんだったんだ。」
「あ〜〜〜、これで、長谷川氏が時々、哲学者になるのが分かった。」
「どういうことですか?」
「ソクラテスの妻だよ。」
「ソクラテスの妻?」
「ソクラテスを哲学者にしたのは、悪妻ってこと。」
「ああ、それ、何かの本で読んだことあります。」
長谷川氏は、彼らの前で止まった。
「いや〜〜、保土ヶ谷さん、妻が迷惑をかけちゃって!」



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