ウメさんは、パソコンの電源を落とした。 「わたし、門のところで待ってましょうか?」 「そうね…」 「ちょうど、外に出て、頭を冷やそうと思ってたんです。」 「そ〜お、じゃあ、おねがいします。」 ウメさんは出て行った。直後に、龍次が入って来た。 「ウメさん、どこに行ったの?」 「門です。長谷川さんの夫を迎えに。」 「長谷川さん?」 「あそこに寝てる方です。」 龍次は、ゲストルームを覗いた。 「あ〜〜、あの人か、よっぱらいの人って。」 「はい。」 「みっちゃんも大変だねえ。」 「はい。」 「後はいいよ、僕がやるから。」 「いいえ、大丈夫です。あの人の旦那さんが来るまで。気がすまないんです。」 「ああ、そうなの。みっちゃん、ひょっとして、A型?」 「そうです。」 「わたし、O型。」 「じゃあ、気が合いますね。」 「そうなの?」 「龍次さん、白髪が増えたんじゃない?」 「そう?」 「龍次さん、ひょっとして、アラ還?」 「なんで僕が、嵐寛寿郎なんだよ?」 「あらしかんじゅうろう?」 「ヨコタンも同じようなこと言ってたなあ。」 「あらしかんじゅうろうって、誰ですか?」 「知らないの?」 「はい。ひょっとしたら、歌舞伎の方ですか?」 「違うよ。じゃあ、長谷川一夫って知ってる?」 「長谷川かずお?」 「やっぱり知らないか。…、あの人、長谷川さんだよね?」 「そうです。」 「ひょっとしたら…」 「ひょっとしたら?」 「高野山テクロロジー研究所の長谷川さんの奥さんかなあ…」 「そういう人、いるんですか?」 「高野山テクノロジー研究所の所長だよ。」 「そうなんですか。」 「あの人だったら、変わった乗り物に乗ってくるから、すぐ分かるよ。」 「変わった乗り物って?」 「アシスト電気自動車。自転車みたいに漕ぐ自動車。」 「漕ぐ?」 「ペダルがアクセルになってるの。」 「へ〜〜〜、どうしてそんなことをしてるんですか?」 「運動のためだよ。」 「なるほどね。」 「そうだ、僕も迎えに行こう。」 龍次は出て行った。 ウメさんは、門の扉を開け、長谷川さんの夫を持っていた。 「やあ、ウメさん、ご苦労さん!」 「あっ、保土ヶ谷さん。」 「まだ来ない?」 「はい。」 「あっ、あれかな?」 ゴルフ場のカートのような自動車が、こっちに向かってやってくるのが見えた。運転席で、男がハンドルを握って、ペダルを漕いでいるのが見えた。 「やっぱり、長谷川さんだ。」 ウメさんも、長谷川さんを知っていた。 「あの人、長谷川さんの奥さんだったんだ。」 「あ〜〜〜、これで、長谷川氏が時々、哲学者になるのが分かった。」 「どういうことですか?」 「ソクラテスの妻だよ。」 「ソクラテスの妻?」 「ソクラテスを哲学者にしたのは、悪妻ってこと。」 「ああ、それ、何かの本で読んだことあります。」 長谷川氏は、彼らの前で止まった。 「いや〜〜、保土ヶ谷さん、妻が迷惑をかけちゃって!」
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